年明け早々、私は心静かにまっさらな紙に向かいあって今年の抱負を考えていた。どうしようか。去年は仕事に就いたばかりだったこともあって、「一生懸命」といういかにも初々しい抱負をしたためた。うん、あの頃の私は確かに初々しかった。誰がなんと言おうと。


「ねえ、まだ書けないの?」
「邪魔しちゃダメですよ先輩。たとえボクたちがもう一時間も待ってるとしても」
「無駄にプレッシャーかけるのやめてもらえますかヤマトさん。そして待ってなくていいのでお二人で初詣に行ってきてください」


 もはや初々しさのかけらもない自分に溜め息が出る。というか私がこうなったのも、ひとえにこの二人が原因じゃないのか。ああ、慣れって怖いなあ。


「っ、ダメダメ! いい? こういうイベント事には不埒な輩がいっぱいなんだから!」
「甘い言葉に騙されてしまったが最後、最悪な年を過ごさなきゃいけなくなるんだよ? それでもいいのかい?」
「不吉なことを予言するのはやめてください。いいじゃないですか出会いを求めたって……って、そうだ」


 再び紙に向かい合って筆を取り、さらさらと迷いなく書き上げていく。うん、いいぞ私。


「ふう……出来たー」
「どれどれ……って何なのコレ!」
「『恋愛成就』って……好きな男でも出来たのかい!?」
「うん上手く書けたなあ。よし早速貼ろうそうしよう」


 ぎゃいぎゃい騒ぐ二人を軽くスルーして書き上がったばかりの今年の抱負を壁に貼り付けた。大きく主張するその文字に思わず頬が緩む。去年はなんだかんだではたけさんとヤマトさんに関わることが多かったから仕事以外での出会いなんてほとんどなかったもんなあ。それはそれで案外楽しかったけれど口に出すとまた面倒くさいことになるから絶対に言わない。


「さ、初詣に行きましょうか」
「行こう行こう! はぐれると困るから手繋いでいこうね!」
「はぐれても帰るとこ一緒なんで遠慮します」
「ナンパされたらどうするんだい!」
「むしろ嬉し……嘘です嘘です!」


 ヤマトさんの背後にどす黒い何かがどろどろと渦巻いているのが見えて、慌てて首と手をぶんぶん振った。新年早々から見たくないものを見てしまった。ああ怖い。


「そうだよね? だから、はい」
「……よろしくお願いします」
「うん」


 ヤマトさんの雰囲気に圧された私は差し出された二人の手をそれぞれ握りしめて歩き出した。今年も過保護なこの二人に振り回されるのを想像して溜め息を吐きつつ、それでも握られた手の暖かさにそれもいいかと思うあたり、私も彼らに少なからず依存しているらしい。


「なーに? オレの顔になんかついてる?」
「いえ……今年もよろしくお願いしますね」
「「もちろん」」





 しかし翌朝、目が覚めた私の目に飛び込んできたものにそんな気持ちも吹き飛んだ。それは私の書いた今年の抱負の両脇に貼られた、おそらく彼らの今年の抱負。


「『害虫駆除』に『身辺警護』って……」


 どうやら私の今年の抱負は新年早々から彼らに邪魔される運命にあるらしい。今年が終わるまであと三百六十三日。早く来年が来て欲しいと切実に願う私は悪くないと思う。合掌。


.



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -