「すみません、話があります」


 いつものように私の部屋で朝から寛ぐはたけさんとヤマトさんの前で正座して話を切り出す。一瞬きょとんと目をしばたかせたふたりが座り直したのを確認したなら、私はコホンとひとつ咳払いをした。


「えー……実はですね、」
「……」


 真剣な面持ちのふたりが息を飲んで見つめてきて、なんともいえない緊張感が辺りに漂う。ごまかすようにもうひとつ咳払いしたなら握った湯呑みに視線を落としながら口を開いた。


「友達と旅行に行くので、」
「はい却下」
「同じく」


 一応出かける前の礼儀だと思って告げた私の気遣いは彼らの発言によって粉々に砕け散った。だいたい却下ってなんだ。彼らはいつから私の肉親になったんだ。


「あ、出発は今日なのでキャンセルはできません。ということで留守の間はよろしくお願いしますね」
「ひ、ひどいじゃない! 直前まで秘密にしとくなんて!」
「そうだよボクたちのこと信用してないの!?」
「全然ひどくありませんし不法侵入する人たちに元から信用なんてありません。そしてもう着替えるので帰ってください」
「有無を言わせぬこの言いよう……いつのまにこんな女の子になっちゃったの!」
「ひとえに誰かさんたちのおかげですよね」
「……!」


 素知らぬ顔してそう返せば、はたけさんとヤマトさんが今にも泣きそうな顔して私を見つめていた。ふたりしてそんな捨てられた子犬みたいな顔するの止めて欲しい。まるで私がとんでもない極悪人みたいじゃないか。心中そう願ってみたが、どうやら彼らには届かないらしい。ますます強くなる視線が私の罪悪感をちくちくと刺してきていよいよ面倒くさい。


「はあ……今回は約束しちゃったのでどうしようもないですけど、今度からはちゃんと事前に言いますから、ね?」
「……どうしても、行くの?」
「はい、すみません。でもちゃんとお土産買ってきますから」
「……夜は連絡、してくれるかい?」
「夜は爆睡してるので無理です」
「じゃあ、朝はこの部屋でご飯食べてもいい?」
「それは不法侵入するってことですよね却下です」
「「じゃあ、」」
「あああもう! たった三日くらい我慢できないんですかふたりとも!」
「「うん」」
「……もういいです」





 結局こんな会話を朝からしたせいか、出発前にすでに疲れ果てた私は旅先で熱が出て一日で帰宅する羽目になってしまった。そんな予定外の私の帰宅に文句も言わず(いやむしろやる気満々で)一晩中つきっきりで看病するふたりに感謝するとともに、また明日から始まるだろう日常に思わず溜め息を吐いたのは仕方のないことだろう。そしてこの発熱のせいで今後の旅行がことごとく却下され続けたのは言うまでもない。合掌。



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