神妙な顔で向かいに座るはたけさんとヤマトさん。漂う沈黙に息苦しささえ感じて、尋問を受ける犯罪者の気持ちが少し解った気がした。


「聞いてるの?」
「は、はい……」


 若干怒気を孕んだはたけさんの声に現実逃避しかけていた意識が引き戻された。というか何コレ。まるで私が悪いことしたみたいじゃないか。


「いい? 大事なことなんだからちゃんと答えて」
「う……」
「そうだよ。ボクたちがちゃんと取り返してきてあげるから、ね?」
「で、でも、」
「「だからどんな下着だったかちゃんと言って」」


 う……うわああん! このふたりに話した私がバカだったー!










「……なるほど。ピンクの生地にピンクのレースね」
「違いますよ先輩。ピンクの生地に薄いパープルのレースですよ」
「も、もうどっちでもいいんでそれ以上言わないでくださいい!」


 穴があったら入りたい。仮にも女の子の下着だよ。なんでこんな至極真面目な顔で会話できるんだよ。それともなにか。上忍ともなると女の下着くらいじゃ動じないのか。


「そんな顔しないの。大丈夫だから」
「そうだよ。犯人が二度とそんな気を起こさないように懲らしめてくるからね。死なない程度に」


 ぽんぽんとあやすように両脇から笑顔のふたりに肩を叩かれる。ん……? ちょっと待って。今、ヤマトさんの口からものすごく不穏な言葉が飛び出したような……。


「そうだねえ……まあ指の一本や二本は覚悟してもらわなきゃね」
「それじゃ生ぬるいですよ先輩。やるなら十本全部でしょう」


 こ、怖い……! 目がいっちゃってるよ。というかたかが下着ドロにそこまでするの? これが普通なの?






「はたけさんもヤマトさんも……なんか、怖い、です……」


 ぽつり、つい口を突いて出た言葉。言ってしまったことで余計に怖さが増して、不覚にも目頭が熱くなった。私が知らないだけで、もしかしたらふたりはいつもこうなのかもしれない。じゃないと上忍なんて務まらないじゃないか。それでも、頭では理解できてもどうしても普段のふたりからは想像がつかなかった。ううん、想像したくなかった。


「……ごめん。怖がらせたね」
「あー……ごめんね? つい熱くなっちゃって……」
「ち、がうん、です……」


 それ以上言葉は続かなかったけれど、私の頭を撫でるふたりの手がもういいよと言ってくれたような気がした。その手の優しい動きはいつもと同じふたりのものだった──










「なんですかコレ」


 数日後、私の前に差し出されたのはふたつの小さな箱。ご丁寧にリボンまでかけられたそれは、ふたりの掌の上で受け取られるのを待っていた。


「いやー……下着ドロは捕まえたんだけど、ね?」
「一回他の男の手に触れた下着を返すのはちょっと……いや、かなり抵抗があって、ね?」
「……だから?」


 恥ずかしそうにもにょもにょ話すふたりに口元が引きつる。まさかとは思うが、さすがに先日下着の話を真顔で話していたふたりだ。可能性はゼロじゃない、というかもう確実だろう。


「だから新しいのプレゼントしちゃう! 可愛いのにしたからね」
「ボクのは清楚なデザインだよ」
「ありがとうございます。やっぱり大家さんに部屋替えてもらいます」





 後から聞いた話だと下着ドロは五体満足ではあったけれど、それはもう涙なくしては見られないほど恥ずかしい格好で上忍待機所前に放置されていたらしい。そして盗られた私の下着は今も行方不明なままだ。それがいちばん怖いと思うのは私だけの秘密にしておこう。合掌。



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