こんこん。朝の安らかな睡眠タイムからぼんやりと覚醒して、まだ眠い目を擦る。玄関ドアから聞こえてきたその音に、もうそんな時間かと溜め息が出た。それにしても眠い。あー……寝てもいいかな。いいよ、ね……。


「出てきませんね」
「うーん……ドア壊しちゃう?」
「それはちょっと……でも、そうですね。後でボクが直せばいいですし」


 再び夢の中をさまよい始めた脳を、ありえないセリフが激しく刺激した。勢い良く飛び起きて玄関を開ければ、至極真面目な面持ちで考え込むふたりの男がこちらに視線を向けて微笑んだ。


「おはよう」
「おはよー」
「……その手はなんですかふたりとも」


 既に壊す気満々だったのか右手にバチバチと電気らしきものを光らせていたのは右隣に住むはたけさん。対して直す気満々だったのか右手が既に手の形態を成していないのは左隣に住むヤマトさん。連携は素晴らしいとは思いますがそれ完全に犯罪です。


「なかなか出てこないから心配したよ」
「ホラ朝ご飯だよ〜」
「……毎朝思うんですが、なぜ私の家で朝ご飯食べるんですか」


 にこやかに、けれど否応なく玄関を跨ごうとするふたりの前に立って道を塞ぐ。一瞬きょとんと目をしばたかせたふたりは、次の瞬間爽やかな笑顔を向けて言い放った。


「みんなで食べれば美味しいから」
「……ふたりで食べてて下さい」


 私は低血圧で朝は弱いし、なにより朝食は食べない派だ。食べてる暇があるなら寝ていたいんだよ。はあ。思わず溜め息を吐いた私の肩を笑顔のままのヤマトさんの手が優しく──い、いったあああっ! 前言撤回、泣きそうなほど強く掴んできやがった。


「……ボクたちと朝ご飯食べるのとボクに支配されるの、どっちがいいかな」
「たっ、食べます食べますええもう喜んで!」
「うん、お邪魔するよ」


 負けた。優しい顔してあからさまに脅してくるなんて鬼だ。悪魔だ。地獄に帰れ!
 もう既にリビングに移動したふたりの背中を睨みながら自分も足を踏み入れた。今日こそ絶対大家さんに直訴するんだと強く心に誓って──





 そんな日に限って私の好きなものばかり食卓に並ぶから、まあいいか、なんて思ってしまう辺り、私もふたりに絆されてしまっているのかもしれない。たとえそれが定期的に行われるふたりの大家さん対策だと理解していても、嬉しいものは嬉しかったりするんだ。合掌。


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