昼間の暑気の余韻を含んだ風が頬を撫でていく。吊された風鈴だけが涼しげな音を奏でる縁側に寝転びながら、見るとはなしに空を見上げた。



「……そろそろ来っかな」



 組んだ腕を枕にそう呟けば、裏口の方からカラカラと軽快な下駄の音が近付いてきて、そのタイミングの良さに思わず苦笑が零れた。



「シカマル」

「……よお」



 ほどなくして現れたのは長年の幼なじみ。いつものラフな格好じゃなく浴衣姿なのは毎年この日だけの限定。歩きづらそうに歩幅を小さくとるそのたどたどしい足取りに自然に口角が上がった。



「あれ……? なんで浴衣、」

「あ? こっちの方が涼しいんだよ」

「か、髪だって……」

「ひとっ風呂浴びたからな。もっかい結うのめんどくせえ」

「そ、そっか……」



 普段の格好と違って見慣れねえからか、なまえの視線は右に左にと忙しなく動いて、端から見てるとまるで小動物みてえだ。その様子に思わず口角が上がり、オレは内心ほくそ笑んだ。計算通り──めんどくせえ格好した甲斐があったぜ。



「座れば?」

「え……? あ、ああ! そうだ、ね」



 ぎくしゃくと不自然極まりない歩き方で縁側へと近付いてくるなまえに苦笑を零し髪をかきあげる。その瞬間、なまえの足音がぴたり止んで、代わりに息を飲む音が聞こえた。



「……んだよ?」

「すみませんもう無理ですいつもの格好でお願いします!」

「は?」

「……っ、は、反則、だよ……」

「……っ!」



 耳まで真っ赤に染め上げた幼なじみの上目遣いに、オレのさっきまでの余裕なんか全部吹っ飛ばされた。やべえ。お前の方が反則だろが──!



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