「アイツのどこがいいのよ? サボリ魔だし、ぼんやりしてるし!」

「ど、どこって……」

「そうよ! サスケくんならともかく、なんでシカマルなワケ!?」

「いや、なんでと言われても……」



 終業式を迎えた今日、やけに良い笑顔のいのとサクラに強制連行された甘栗甘の一角。私はただいま青春真っ盛りのふたりに両脇を固められて一方的に尋問を受けていた。いったいどこのどいつだ、密かに温めていたほのかな好意をこのふたりにバラしたのは。おかげでこの暑い中、さらに熱いふたりに囲まれる羽目になったじゃないか。特にいのなんて奈良くんの幼なじみなせいか放つ言葉にところどころ棘がある。いくら温厚な私でもそろそろ我慢の限界だった。



「い……いいじゃない! 私が誰に好意を持とうが私の自由でしょ! それに……奈良くん優しいよ!」

「あ。あー……なまえ?」

「頭だって良いし、友達思いだし、それに……それに!」

「なまえ! ストップストップ!」

「なによ! 止めない、で……?」



 バツが悪そうに私を見上げるふたりはお店の一点を指差している。つられるように視線を向けた私は一瞬にして血の気が引いた。



「な、ら……くん」



 驚いたように目を見開く奈良くんが私を見つめたまま固まっていた。傍らに親友の秋道くんがいるってことはきっと奈良くんも無理やり誘われたんだろうな、なんて衝撃のあまり冷静に奈良くんの状況を分析する自分が悲しくなる。そんなことしてる場合じゃないだろ。



「あー……なまえ? アタシたち、帰るね?」



 お互い固まったまま凝視する私と奈良くんがあまりにも何も言わないせいだろう。おずおずと手を上げたふたりが席を立つ……って、いやあああ! 待って待って待ってよ! そもそもアンタたちが原因だよね? ひっそりこっそり募らせてた私の想いを好奇心だけで聞き出そうとしたのはアンタたちだよね? 頼むから責任取って収拾つけてから帰ってくれー!



「ありがとうございましたー!」



 甘栗甘のお姉さんの声が無情にも響き渡る。内心あれだけ叫んでいたくせに結局声には出せなかった。ただ酸素の足りない金魚のように、はくはくと口だけが動いていた。



「おい……」



 私より先に立ち直ったらしい奈良くんの低い声で私はハッと我に返った。どうしたらいいんだこの状況。いつまでもこうして立ってるのもお店の迷惑だろうし、これ以上目立つのも勘弁願いたい。そして切羽詰まった人間ほど強いものはないらしい。私の口から出た言葉は私自身驚くほど大胆なものだった。



「と、とりあえず……かき氷、食べませんか?」















 その時のことは残念ながら緊張のあまりほとんど覚えていない。なぜか鮮明に覚えているのは、かき氷シロップによって染まった奈良くんの真っ赤な舌だけ。だけど今、横に奈良くんが歩いているということは、少なくとも嫌われるようなことだけはしなかったんだろう。それだけがせめてもの救いだと胸をなで下ろしたなら、再びかき氷を食べるべく、ふたりして甘栗甘へと足を向けたのだった。



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