とは言ったものの、正直どの女の子かなんて私には解らない。仕方なく手当たり次第に女の子を驚かせてみた。桃色の髪の女の子は恐怖からか金髪の男の子をぶっ飛ばして凄い形相で逃げていったし、金髪の女の子はその類のものに興味津々らしく目を輝かせていた。ううむ難しい。となると残るはあと一人。女の子の中では一番大人しそうだ。しかしここにきて小さな疑問が生まれた。その女の子はさっきから一言も言葉を発していない。なんだろうこの違和感。真っ暗な校内、灯りは頼りない懐中電灯だけ。普通の、少なくとも私が今まで出会ってきた女の子とは明らかに様子が違う。



「なまえ、大丈夫か」

「……」



 おお。あの奈良シカマルが女の子を心配している。これはやはりこの女の子で決まりだろう。そうと解ればここは全力を尽くすしかあるまい。ああ私ってなんて優しい妖かしだろう。感謝しなよ奈良シカマル。自分の優しさに浸ってうんうんと頷いていると何やら視線を感じた。普段そんな感覚には縁遠い私だが、確実に焦点を合わせたその視線に背中が寒くなる。その答えは顔を上げた途端すぐに解った。あの女の子がまっすぐ私を見ていたからだ。しかもその唇はうっすら上がっていて、まるで今の状況を楽しんでいるようにも見えた。驚きで固まる私をよそにその女の子の唇が動き出す。声に出さずに私に向けて放たれた言葉はまったく予想もしていないものだった──










「おい」

「え……あ、ああ……」



 どれくらいそうしていたのだろうか。気付けばあの一団の姿はすでになく、肩を叩いた同胞が私の顔を不思議そうに覗き込んでいた。



「大丈夫かお前?」

「ああ、うん。……ねえ、さっきのヤツらは……」

「とっくに帰ったぜ」



 なんという失態。奈良シカマルの恋を応援するつもりが結局なにもできなかった。それもこれもあの女の子のせいだ。



「ありがとう。でも心配してくれなくても大丈夫だから」



 そういって穏やかに微笑んだ女の子の顔を思い出した。そうか、私が手伝うまでもないってあの女の子は解ってたんだ。若干の寂しさを抱えつつも、これで良かったのだと自分を納得させた。そもそも妖かしの自分が人間に干渉しようとしたのが間違っていたのだ。頑張れよ奈良シカマル。私は密かに応援することにしたからね。後は君の出方次第だよ。










 新学期が始まって早々、いつものように二年A組で時を過ごしていた私の前には奈良シカマルとあの女の子の姿。上手くいったんだ、良かった。ホッと胸をなで下ろした途端、ふいにあの女の子がこちらに視線を向けた。頑張れよの意味を込めて親指を立てた私に小さく頷くと、女の子は何事もなかったようにまた奈良シカマルへと視線を戻していった。いやあ実に微笑ましいじゃないか。
 そう笑う私は予想もしていなかった。まさかこの二人のせいで来年から夜の学校訪問が急激に増えることを。そしてこのお人好し(?)な私の性分のせいで次々とカップルを成立させてしまうことを。
 やっぱり人間には干渉するもんじゃない、そう思いながらもまた今夜もやってくる人間相手にサービスしてしまうであろう自分に溜め息を吐いて、私はまた校内をふよふよと漂うのだった。



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