シャワーの水音がしんと静まり返った部屋に響く中、オレは柄にもなく手に汗をかくほど緊張していた。心臓が激しく脈打って、落ち着こうと点けた煙草を挟む指すら情けねえほど震えている。やべえ。落ち着け、オレ。



「シカマルー?」

「!」



 がたん。自分の名を呼ぶ声に思わず慌てて立ち上がった。くそ、なんだオレ。マジでカッコ悪い。思春期のガキじゃあるまいし、オレも、今オレを呼んだアイツも二十歳そこそこと世間じゃ大人の部類に入ってんだぞ。こういう状況になる程度には付き合いも長いし、何よりお互い好意を持ってるんだ。だから、ちったあ落ち着いてくれ。頼むぜ、オレの心臓。



「ねえ、シカマルもシャワー浴びる?」

「あ、ああ……」



 バスローブ一枚で頭からタオルを被ったなまえが冷蔵庫から取り出したスポーツドリンクを飲みながら姿を現した。

 ……色々な意味でやべえだろ。上気した肌だとか、水滴の滴る髪だとか、今のオレには刺激が強すぎて直視できねえ。なのにオレのそんな気持ちなんか知る由もなく、普段通りの表情を浮かべるなまえにオレは内心舌打ちして立ち上がった──










 そもそものきっかけはなまえの誕生日。普段なら人混みを嫌うオレが、珍しくなまえの行きたがってた遊園地に誘った。ただそこは日帰り出来るような距離にない。だから必然的に泊まりになった。もちろん下心なんてものはなかった……とは言い切れない。だけど今日一日、楽しそうにはしゃぐなまえの姿を見てそんなもんどうでもよくなったのも事実だ。けど、さすがに部屋にふたりきりになっちまうと、悲しき男の性ってやつか。妙に緊張してなまえの一挙一動が気になって仕方ない。そんな邪な思考を振り払うように、洗っていた頭をガシガシとかきむしった──











 バスルームの扉を開けて冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出す。まとまらない思考のせいで長いこと浴びていたせいか喉がカラカラだった。ごくり。ごくごく。一気飲みに近い勢いで喉に流し込んでなんとはなしにベッドに視線を遣った途端、落ち着いたはずの心臓が再び激しく脈打ち始めた。



「なまえ……?」



 オレを待っているうちに眠気に襲われたのだろう。瞼を閉じたなまえがすうすうと寝息を立てていた。それはいい。今日一日歩きづくめだったし疲れたのは理解できる。けど、さすがにそのカッコはありえないだろ。バスローブの合わせから覗く鎖骨と胸の谷間。さらに乱れた裾から伸びる白い脚が網膜の奥をチカチカと刺激する。だからやべえんだっつうの。少しはオレに対する危機感を持ってくれ。どんだけ信用されてんだよオレ。

 今にも飛んでいきそうになる理性を無理やり繋ぎ止めて、ごくり、覚悟を決めてベッドサイドに足を向けた。



「なまえ……寝るんならちゃんと布団被れ」

「……」

「風邪、引くぞ」

「ん……」



 聞こえたのか聞こえなかったのか、なまえがもぞもぞと身じろぎし始めた。やれやれと思いつつ、とりあえず布団を捲って体を入れるスペースを空けて待ってやる。どっかのお袋かオレは。



「シカマルも、寝よー……?」

「!」



 不意に聞こえた声に心臓が跳ねた。それだけじゃねえ。布団を掴んでいた手に重ねられた細い指先から伝わる体温に全神経が集中した。

 見ればまだ半分夢の中にいるみてえな顔したなまえが自分の隣を指差している。
 ひとの気も知らねえで──はあ。溜め息をひとつ零したなら、今夜は一晩中理性と戦う覚悟を決めて、オレは祈るような思いでベッドへと体を滑り込ませた──





理性との戦い





 明け方、ようやく眠りにつきかけたオレの唇を塞いだ柔らかい感触に、夜通しの戦いが呆気なく決着したのは言うまでもない事実だったりする。ああ、眠い。



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