「やだね、めんどくせえ」

「まあまあ、そんなこと言わずによー」

「断る」



 にべもなく断るシカマルとなんとか説得しようとするキバのやりとりを聞き取ろうと、私は物陰に隠れて耳をそばだてていた。うーん、なかなか手ごわそうだな。本当ならこういう場合はいのあたりに頼めば一発なんだろうけど、女に変化したシカマルが見たいなんて言ったら、なんだかんだとこじつけて恋愛話に持ち込まれるのは間違いない。ここはやっぱり、時間がかかってもキバの友情パワーに縋るしかない。頼むよキバ!



「いいじゃねーか減るもんじゃあるまいし」

「そんなもんナルトに言えよ」

「アイツのはもう見飽きたっつうの」

「だからってなんでオレんとこ来んだよ」

「いやー……なんつうか、ほらアレだ!」

「どれだよ」



 あああ。なんか最高潮にイライラしてきた。キバに説得なんか頼んだ私がバカだったよ。ていうかシカマルもめんどくさいならさっさと変化すればいいじゃない。どうせまた、男が女に変化するなんてありえないとかくだらないこと考えてるに決まってる。あーヤダヤダ。



「とにかく! 一回だけでいいから!」

「やだね」

「……どーしても?」

「ああ」

「ふーん……」

「なんだよ」



 じとりとシカマルを睨んでたキバが何か思い付いたのか、意地悪くニヤリと笑ってシカマルに近付いていく。私はと言えば早くシカマルの変化したところが見たくて見たくて、祈るようにシカマルの背中に向かって手を合わせていた。



「──、」

「っ! 解ったっつうの、やればいんだろやれば!」



 内緒話をするみたいにキバがシカマルに耳打ちをした途端、それまで本当に興味なさそうな顔してたシカマルの表情が変わった。キバってばシカマルになに言ったんだろう? よく見ればシカマルの頬がうっすら赤い。なにか弱みでも握られてるんだろうか。それでもまあ、とりあえず私の願いは叶いそうだし結果オーライってことにしとこう。



「……ホントに一回だけだからな」

「おう!」



 いよいよ、だ。それにしてもシカマルの指、綺麗だな。印を組む姿も様になってるし、そこはさすがに中忍といったところかな。あ、なんかドキドキしてきた。落ち着け、私の心臓。



「変化の術!」



 ボフン! シカマルの声が響いて慌てて前を見た。もうもうとする空気の中うっすらと人影が見えて、私は慌てて目を凝らした。と、次の瞬間。



「なにやってんの? なまえ」

「のわあっ!」



 不意に肩を叩かれて私の心臓が一瞬止まった。それと同時に変な叫び声が口から飛び出てしまい、慌てて両手で押さえてみたものの今更遅いことに気付いて、背中に冷たい汗が流れた。だって、この、鬼気迫るオーラ……こ、怖い……。怖すぎて振り向けない。



「おい……?」

「はっ、はいいっ!」

「……なんでお前がここにいる?」

「あ、いや、その、たまたま、」

「ああ?」

「すいませんでした」



 シカマルの低い声があまりにも恐ろしくて、即座に土下座したのは正しい判断だと思う。しばらくその態勢のまま固まってたら盛大な溜め息が頭上から聞こえてきた。おそるおそる見上げれば呆れ果てた顔したシカマルと、その後ろで人の悪い笑顔を浮かべたキバが片手を上げて走っていくのが見えた。う、裏切り者ォ……!



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