「暑いよねー……」



 ふう。口布を指で摘んですっかり蒸れた鼻下に空気を送りながら呟けば、なまえが台所からひょっこり顔を出して笑った。



「海でも行く? サツマも連れて」

「……サツマ水着なんて持ってないよね?」

「オムツでいいじゃない。あ、むしろ裸?」

「ぶっ! ダメダメッ! 嫁入り前のサツマの裸なんてっ!」

「あのねえ……サツマはまだ赤ちゃんよ?」

「ダメなものはダメッ!」

「はあ……仕方ないわねえ」











「きゃー!」

「気持ちいい? サツマ」

「……」



 数時間後、きゃいきゃいとはしゃぐサツマとなまえの横で、オレは子供用ビニールプールに浸かって閉口していた。



「ほら、そんなぶすくれないの。サツマが楽しそうだしいいじゃない? ね、サツマ」

「あーう!」



 冷たい水の感触にご機嫌なサツマはえむの言葉に嬉しそうに頷くけれど、狭い子供用ビニールプールで小さくなってるオレの姿は誰がどう見てもかなりイタいもので。
 こんな姿を仲間に見られたら──そう思うと溜め息が零れるのは仕方ないじゃない。



「……なまえは入らないの?」

「私? うーん、水着入らないし……まさかバスタオル一枚で入るわけにはいかないでしょ?」



 苦笑しながらプールに突っ込んであったホースを抜いて蛇口へ水を止めにいくなまえの後ろ姿。白いワンピースの裾がひらひらと魚の尾びれのように揺れている。



「……オレは別に構わないけど?」



 ぽつり。小さな声で呟いた途端、なまえの足がぴたりと止まって。
 振り返ったなまえの顔は暑さにやられたんじゃないかってくらい真っ赤になっていた。



「カ……、」

「んー……?」

「カカシのスケベッ! 変態っ!!」

「ぶっ……! ちょ、なまえっ?」



 ざばざば。ホースの先を潰されて圧力の増した水は見事にオレの顔面にヒットして。勢い余った水は鼻の奥を直撃して、オレは思わず鼻を押さえて噎せかえった。



「ごほっ……! なにすんのよ、痛いじゃない」

「うるさいっ! カカシのせいで余計暑くなったじゃない!」

「……はい?」



 ぱたぱた。自分の手をうちわ代わりにして扇ぐなまえの顔は、今にも湯気が上がりそうなくらい真っ赤なまま。
 呆気にとられていたのも束の間、オレはなまえの小さな体を胸へと引き寄せて、その真っ赤な耳へとそっと唇を寄せた──












「い、いたたたた……」

「日焼け止め塗らないからよ」

「あー!」



 ヒリヒリする背中。なんの紫外線対策も施さなかったせいで見事に真っ赤になったそこにたっぷり乳液を塗り込みながら呆れたようになまえが呟く。
 サツマは水遊びでさっぱりしたのかご機嫌で笑っている。
 そんなサツマを見ながらふとなまえの手が止まってオレの肩にそっと触れた。



「ね……カカシ」

「ん?」

「……3人で遊ぶのもいいけど、4人になったらもっと楽しいと……思わない?」

「!!」



 くるり。振り返った先、恥ずかしそうにはにかむなまえの笑顔に、今度はオレが真っ赤になる番だった──







「今日は無理でしょっ!? カカシ!」

「いや、善は急げっていうし……っ、いたっ!」

「……カカシのスケベ」






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