オレたちが結婚して約半年。世間ではまだまだ新婚と言われる時期にそれは突然やってきた──






 穏やかな朝食の時間、オレはなまえとふたりで向かい合って朝の幸せなひとときを堪能していて。



「美味しいね? このお味噌汁」

「カカシは本当に茄子のお味噌汁好きだよね?」



 呆れたように笑うなまえに内心、お前が作ってくれたから尚更だヨ? ──なんて歯の浮くような台詞を呟いて、再度お椀を傾けた瞬間。



「う……」



 苦しげな声が耳に届いて慌てて視線を向ければ、顔面蒼白ななまえが片手で口を覆っていた。
 眉根をきつく寄せ、何かを堪えるように視線は一点に集中している。



「なまえ……? だいじょ、」

「も、ダメ……っ!」



 苦しそうななまえを見かねて立ち上がった瞬間、なまえもまた苦しさに耐えかねたのか勢いよく立ち上がって。
 切羽詰まった顔で一目散にトイレへと駆けていった。



「なまえ……具合悪いの?」



 はあ、はあ。胃の中のものを出し切ったのか、ぐったりと座り込むなまえにおそるおそる声をかければ。
 ふらり。肩で荒い息を吐きながら振り返ったなまえの顔には弱々しい笑顔が浮かんでいた。



「なまえ……?」

「できちゃった……みたい、」

「……?」

「……赤ちゃん」

「!」



 驚くオレにちらり、視線を向けたなまえの笑顔は青白いながらも穏やかで。
 そっとお腹に手をあてて優しく撫でるなまえの姿が、やけに眩しくオレの目に映った──










 それから安定期に入るまでの約3ヶ月──なまえは悪阻に、そして俺は寂しい食生活とに、それぞれ耐え忍ぶ日々を強いられた。
 この世のあらゆる匂いすべてが耐えられないと、起きている間中ずっと顔をしかめていたなまえに料理をさせるのは気が引けたし、なにより食事もまともに受け付けないなまえの体の方が心配だったから、それくらいの我慢は我慢のうちにも入らなかった。
 そんなある日の午後。昼夜問わず意識のある時は常に吐き気と闘っているなまえがソファに凭れて眠っていて。
 そっと毛布をかけようとして、目に映ったなまえの姿にオレは愕然とした。
 無防備に放り出された腕は棒きれのように痩せ細り、左手の薬指にはめられた指輪はサイズが合っていないのか今にも抜けそうなほどで。
 けれど、その痛々しい姿とは対照的に、瞼を閉じたなまえの顔があまりにも幸せそうで──



「母は強し、か……」



 なまえの体にそっと毛布をかけて呟いたなら、起こさないように細心の注意を払いそっとなまえの傍らに腰掛けて。
 近い未来、オレとなまえと生まれてくる子供の幸せな毎日を想像しながら、オレは祈るように目を閉じた──




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