ワイワイと騒がしい一団の最後尾。両手にずっしりと食い込む荷物を抱えながら、なまえは遅れないように足を動かしていた。三日前のカカシの弁当騒動に端を発した今回のピクニック。タカナの件もありすっかり忘れていたなまえは昨日の夕方慌てて買い物に行き、夜遅くまで弁当の準備をしていたのだ。加えてたくさん食べるチョウジのことを考え、いつもの三倍はあろうかという量のおかずを用意した。つまり寝不足なのだ。それでも楽しそうに笑うナルトたちになまえは目を細める。いつの間にか参加しているキバたちが更に一団を賑やかにしていた。 「おい」 「え……? あ、シカマル」 「荷物下ろせ」 「は?」 「いいから」 「? うん」 言われるままに両手で抱えていた荷物を足元に下ろす。目的地までまだあるのに、と首を捻るなまえはシカマルの真意が解らない。そんななまえの目の前でシカマルは今下ろしたばかりの大量の荷物のほとんど手に持ち、申し訳程度に残された荷物を顎で指した。 「お前はそれ持て」 「うん……って、駄目だよシカマル! 私持つから」 「アホか。よろけてたじゃねえか」 「それはただの寝不足で、あ!」 しまった。言うつもりのなかったことを思わず口にして、なまえは自分の口を慌てて押さえた。そんななまえの様子にシカマルは溜め息を零してなまえに向き直る。 「手ェ足りなかったら言えっつったろ」 「いや、あの……夜遅かったし、むしろ準備始めたのが遅かったというか……ごめんなさい」 「なんで謝んだよ」 「あ、いや、せっかくの厚意を無駄にして……」 顔を真っ赤に染め、もごもごと口ごもるなまえにシカマルは笑いを押し殺す。何に対しても一生懸命なその姿勢は見習うべきところだろうが、その一生懸命さがかえって笑いを誘うのだ。ついに堪えきれず吹き出したシカマルになまえはぱちくりと目をしばたかせた。 「ククッ……悪いわりい」 「も……もう! なんで笑うのよー!」 「悪かったっつうの。ほらナルトたち追いかけんぞ」 「ああっ! だから荷物は私が持つってばー!」 先を歩くシカマルの背を追いかけながら、なまえの心臓は煩いほどに高鳴っていた。自分を気遣って荷物を持ってくれたことはもちろんだが、今日のシカマルはなぜか雰囲気がとても柔らかい気がしたのだ。向けられた笑顔にもぎこちなさは見られない。むしろ眩しすぎてまともにシカマルの顔を見られないほどだった。けれど今までのことを思うとシカマルの態度が嬉しくて仕方ないのか、なまえの顔には満面の笑みが浮かんでいた── 「ねえ……なんかあそこだけ空気違わない?」 「ホントだー! やっぱりシカマルってばなまえちゃんのこと、」 「意外と解りやすいんだね、彼」 「でもなまえちゃん嬉しそう……」 「どうするー!? ふたりっきりにさせちゃう?」 「バッカ、早えよ」 追いかけてくるなまえとシカマルを微笑ましく見つめながら、こんな会話が交わされていたことなどふたりは知らない。興奮気味のいのとサクラを宥めながら、追いつかれないよう歩いていく。チョウジはちらりと視線を向けた後、心底安堵したようにいのと笑みを交わす。それは何かが変わっていく確信に満ちた笑みだった── 「ふふっ……無邪気な顔しちゃって」 「しー……起こさないようにね?」 「幸せそうなツラしてんな」 「幸せなんでしょ」 爽やかな風の吹く中、日だまりで眠るなまえとその隣で昼寝をするシカマルの姿。寄り添うように眠るふたりの姿はまるで幼い子供のようだったと、後日みんなにからかわれることになるとも知らず、ふたりは穏やかな寝息を立てて夢の中へと旅立っていたのだった── . |