「って事なんだってばよ!」 翌日、鼻息も荒く話すナルトにその場にいた全員が反応を示した。特にサクラといのの二人は興味津々らしく、身を乗りだす勢いで話に食いついている。 「その人絶対なまえちゃんに気があるのよ!」 「ナルト、どんな人だったの?」 「オレは見てねえけど……なまえちゃんの話だと今日も、」 「きゃー!」 恋愛事、しかも他人のこととなるとあらぬ妄想も浮かんでくるのだろう。けたたましく叫びながらも笑顔の二人は完全に楽しんでいるように見えてナルトは一瞬たじろぐ。 「肝心のなまえちゃんはどうなの?」 「あー……なんで声かけられたのか解ってねえみたいだったってばよ」 「……ええっ!?」 これにはサクラといのだけではなく他のメンバーも驚いたらしい。一斉にナルトへと視線が集中した。しかし乾いた笑いをひとつ零すナルトの顔が真実だと告げていた。 「変なとこ天然だからなー……なまえのヤツ」 「そうなんだってばよ……あれだから放っておけないっつうか……悪い男に騙されんじゃねえかって心配なんだってば」 はああ。お互いの言葉にキバとナルトは深く溜め息を吐いた。なまえは誰にでも優しいという認識を持つナルトたちからすればそこが心配の種だった。その優しさにつけこもうとする輩などこの先いくらでも湧いて出る。その時なまえがちゃんと対処できるのか。最悪泣くことになってしまうのではないか。そう思うと知らずなまえに対して過保護になってしまうのは仕方のないことだった。 「よし、なまえに声をかけた野郎の顔、見に行こうぜ」 「そうだな。オレらが見極めてやるってばよ」 「あ、あたしも行くー」 「オレも行こう……別にその男に興味はないがなまえの反応は面白い」 「あ、じゃあボクも行こうかな。今後の参考に」 「なんの参考だってばよサイ」 「ナルトくんが行くなら、わ、私も……」 「──阿呆くせえ」 一際冷静な声で放たれた言葉に全員が振り返った。そこには視線もくれずただ静かに湯のみを傾けるシカマルの姿。全員に視線に応えるように溜め息に似た息を吐くとシカマルはようやく視線を向けた。 「……なまえだって子供じゃねえ。お前らが気にしたって仕方ねえだろ」 「お前は気になんねえってばよ? シカマル」 「……興味ねえよ」 ふい。視線を湯呑みに戻し、さもめんどくさそうに呟いたシカマルにチョウジは内心溜め息を吐く。本当は誰よりも気にしているのは湯呑みを握る指先が白く変色していることからも窺えた。 あの日、泣くのはこれで最後と、なまえが自分の背中に縋ったことをシカマルは知らない。しかしあの日以来なまえとシカマルの間に流れる雰囲気は表面上の穏やかさとは裏腹にどこかよそよそしくなった。本心を隠してシカマルに接するなまえの態度はどこか痛々しく、そんななまえに接するシカマルもいつも以上に気を遣っているように見えた。いのも同じことを思っていたのか、チョウジと目が会うとやれやれといいたげに肩を竦めてシカマルの前に立つ。 「ねーえ、シカマル? なまえちゃんが変な男に引っかかったらさ、アンタん家のお父さんが黙ってないんじゃないの?」 「そうだね。なまえちゃんのことすごく可愛がってたもんね」 「……」 幼なじみ二人の言葉にシカマルは内心舌打ちした。どうあっても自分を行かせようとしての発言。しかしそれでもシカマルは腰を上げる気になれなかった。仲間という関係の中、なまえと接するうちにシカマルの心からなまえに対する嫌悪感は徐々に薄らいでいた。決して出しゃばらない謙虚さと強い意思を持った瞳を好ましいとさえ感じるようになっていた。けれどそれ故にシカマルのなまえに対する態度は罪悪感からかどうしてもぎくしゃくしたものになってしまう。このままではいけないと内心思いつつ、いまさらなまえにどう接していいのかシカマルには解らなかった。 「ま……無理には誘わないけど?」 「そうだね。なまえちゃんがその人と付き合うとも限らないしね」 「!」 付き合う──チョウジのひとことにシカマルの心は激しく動揺した。自分に対してなまえが好意を寄せている。それはこれからも変わらないのだろうとシカマルは勝手に思い込んでいた。けれどそんな確証はどこにもない。いつか自分に対する想いが思い出となってしまうことも十分に有り得るのだ。それでいいと、それこそが自分の願いだったはず。なのに今、正体不明の感情がじくじくとシカマルの胸を息苦しいほど締めつけていた。 「やっぱオレも……行くわ」 未だ胸を締めつける感情の正体にシカマルは気付かない。けれどなまえに会えば。なまえの顔を見ればその感情の正体が解るような気がした。 コトン。握っていた湯呑みを置いたなら、皆の後を追うようにシカマルは立ち上がっていた── . |