ナルトと並んで商店街を歩いていたなまえは不意に足を止めてその場でなにやら考え込み始めた。眉を寄せて真剣に悩むその様子にナルトも足を止めて様子を窺う。



「なまえちゃん、どうしたってばよ?」

「あ、うん……カカシ先生って何が好きかなあって、」

「は!?」

「ナルトくんは知ってる?」



 見上げた先、ナルトの表情は引きつっていた。何か可笑しいことでも言っただろうかと首を捻って考えるもまるで解らず、なまえは茫然とするナルトの目の前で掌を振る。と、次の瞬間ナルトの腕は痛い程ガッチリと肩を掴み、必死とも言える表情でなまえを睨んだ。



「なんで、カカシ先生なんだってばよ!」

「へ……?」

「っ、カカシ先生ってば年中いかがわしい本とか持ち歩いてるし! あんなんだったらヤマト隊長の方が数千倍マシだってばよ!」

「な、なんの話……?」



 突然噛み付くように訴えるナルトになまえは目をぱちくりさせた。ひとつ解ったのは、ナルトが師と仰ぐ人物は人間性においてナルトにまったく信用がないということ。そういえば自来也のこともエロ仙人と呼んでいたとぼんやり思い出す。その間もいかにカカシがとんでもなく怪しい人物なのかを切々と語るナルトの口は止まらず、その言葉には何故だろうか悪意すら感じられる。



「ナルトくん……何か怒ってるの?」

「怒ってなんかないってばよ! ただなまえちゃんがいきなりカカシ先生の話なんかするから、」

「だって、カカシ先生が今度、私の料理、食べたいって……」

「は?」

「だから、嫌いなもの食べさせたら悪いと思って……って、ナルトくん?」

「……本当に、それだけだってばよ?」

「? うん」



 首を傾げながらも素直に頷いたなまえにナルトはホッと安堵の息を吐いた。これでカカシのことが好きだと言おうものなら全力で阻止しようと思っていた。いや既にし始めていた。どうやらナルトの中ではなまえとカカシの組み合わせはありえなかったらしい。



「つか、なんでカカシ先生に飯なんか……」

「あ、それはね……」



 今日の店でのやりとりをかいつまんで説明する。お弁当をヤマトにあげたこと。後にやってきたカカシに料理を作る約束をしたこと。だからナルトにカカシの好きなものを聞いたのだと告げると、渋々ではあるが納得したようだ。しかしそれでも不満顔を崩さないナルトは本当に駄々をこねる弟のようだった。



「ボクもなまえちゃんの料理食べてみたいな」

「あ、はいはい! あたしもー」



 突然背後から聞こえてきた声に振り向けば、そこにはチョウジといのが立っていた。どうやら任務帰りらしく、忍服は少し汚れている。



「いのちゃん、チョウジくんお帰りなさい。任務お疲れさま」

「なまえちゃんもお仕事お疲れさま」

「疲れたでしょ? ナルトのバカなんて相手してやんなくていいのよ?」

「誰がバカだってばよ!」



 ぎゃいぎゃいと騒ぐナルトといのに思わず苦笑を零していると不意に肩に感じた柔らかい感触。くすぐったさを覚えながら振り返った瞬間、なまえの心臓は激しく波打った。



「シカ、マル……」

「よう」



 口から臓器が飛び出るかと思う程に体内がきゅうきゅうと締め付けられる感覚をなまえは無理やり抑えつけて口角を上げた。



「お疲れ、さま」

「ああ……ところでナルトのヤツはなに騒いでんだ?」

「あ、うん……実は、」



 ばくばくと煩い心臓を必死で落ち着かせながら、なまえは経緯を話す。話し終えたところでちらりとシカマルの横顔を盗み見ると呆れたような表情を浮かべてナルトを見つめている。さして興味などないのだろう。その表情になまえの胸がちくりと痛んだ。こうして隣にいられるだけで良いと自ら仲間であることを選択した。けれど今になって思えばそれは間違いだったのかもしれない。共に過ごす時間を重ねれば重ねる程、押し込めたはずの想いがますます膨らみ、自身の胸を締めつける。



「なまえ」

「は、はいっ!」

「お前、次いつ休みだ?」

「え、あ、三日後、だけど……」

「三日か……ま、何とかなるだろ。おいナルト! それからお前らも、ちょっと来い」



 シカマルの一声で騒いでいたナルトといの、そしてお菓子を食べながら傍観していたチョウジが一斉に振り返る。なまえも訳が解らないままシカマルへと視線を向けた。そんな視線など一向に構う様子もなくシカマルは溜め息を吐いて話し始めた。



「……いいかお前ら? 簡単に言うけどな、準備すんのはなまえだろうが。なまえだって働いてんだ」

「あ……」

「自分たちの要求だけをなまえに押し付けんなよ……ったく」

「ご、ごめん……」



 シカマルの言葉になまえは驚いていた。仕事をしている自分に対して、それを気遣うような発言が出たことがにわかには信じ難い。これが仲間に対するシカマルの接し方なのだろうか。



「でもよー……シカマルはなまえちゃんの手料理、食いたくねえってば?」

「話は最後まで聞け。オレが言いたいのは、要するになまえに準備する余裕をやれってこった」

「!」

「三日後、なまえは休みらしいからよ。そん時どっか行きゃあなまえも準備が一回で済むし、お前らの要求も通る、と」

「さっすがシカマル!」



 皆の歓声の中、なまえはただただポカンとしていた。ちゃんと周りを見て的確に話をするシカマルを素直にすごいと思えた。茫然とするなまえの隣に腰を下ろしたシカマルは少しバツが悪そうにえむを見上げるとなまえの袖を引っ張り隣に腰を下ろさせた。



「悪いな、勝手に決めて」

「あ、う、ううん……」

「準備とか、手が足りなかったら言えよな」

「う……うん!」



 シカマルの優しさになまえの胸は躍るが、その反面自分よりも精神的に何倍も大人に見えるシカマルに一抹の寂しさを覚えた。隣にいるシカマルはあの頃のシカマルではないことに否応なしに気付かされる。そんな寂しさをごまかすように目を逸らし、暮れていく景色をなまえはただじっと見つめていた──



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