はあ。ひときわ大きな溜め息を吐いたシカマルがお茶を飲み干して立ち上がりかけたその時。



「げ」



 店の入口が開き、現れた悪夢の元凶、なまえとシカクの姿に、シカマルは思わず身を潜める。
 なぜか傍らには、いのとチョウジの父親までがいてえむを囲んで楽しそうに笑い合っている。
 4人はシカマル達に気付いていないのか、シカマル達のテーブル脇を通り過ぎ、すぐ後ろのテーブルへと腰を下ろした。



「ククッ……昨日は残念だったなあ? なまえ」



 楽しそうなシカクの声が響いて、聞き耳を立てていたシカマルはやっぱりか、と舌打ちする。
 あれだけ騒いでいたのに上がってくる気配すらない父親──息子の貞操の危機に助けに行くどころか見て見ぬふりとは。



「シカマルがダメだったら、うちのチョウジでもいいぞ? なまえ」



 目の前に山のように積まれた饅頭を頬張りながら、チョウジの父チョウザが笑う。



「うちが女の子じゃなければなあ……」



 いのにとって聞き捨てならないことをしみじみ呟くのは、いのの父いのいち。
 かつての猪鹿蝶トリオが居酒屋以外でこうして顔を揃えるのは珍しいことで。
 その中心でニコニコ笑うなまえの存在は、周りから見たら凄いものに見えているに違いない。






 それにしても。シカマルはずっと抱いていた疑問が脳内に浮かぶ。
 それはなまえの正体。すぐにわかると言っていたにもかかわらず、全くもって謎だらけ。
 自分の嫁になることをシカクと約束していたということは、少なくとも自分が生まれた頃には木の葉にいたのだろうと想像はついた。
 しかし、昨日奈良家に泊まると決まった時点で、どこへ連絡するでもないなまえにシカマルは違和感を覚えていた。



「もう! シカクさまもチョウザさまもいのいちさまも! 私は真剣なんだからね?」



 頬を膨らませたなまえがむう、ひと睨みすれば、途端に三人の頬がだらしなく弛んで。



「悪かったな? ほら、何でも好きなもん頼んでいいからよ」

「ほんと!?」

「ああ。いのいちの奢りだとよ」

「シカク……お前はまた、」

「いのいちさま、ありがとう〜! 大好き!」

「う、うむ……好きなだけ食べていいぞ?」

「じゃ、ワシも……」

「こらチョウザ! 自分の分は自分で払え!」



 ──何なんだ、この光景は……?
 大の男3人が、よってたかって弛みきったツラ晒して小娘ひとりを甘やかし放題。
 どういう経緯があるかは知らないが、自分の父親があんなアホ面を世間に晒しているかと思うとシカマルは頭が痛くなってきた。


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