「じゃあ、いってきます」

「ああ、気をつけてのう」

「お昼は冷蔵庫にあるから。それと……」

「解っとる。ちゃんと八重を学校まで連れてくわい」

「うん、お願いします」



 もう一度いってきますと告げてなまえは玄関を潜った。見送りは自来也とパックン。早朝ということもあって八重は未だ夢の中にいるらしく姿を現さなかった。



「なまえ」



 扉を閉めようと手をかけたところで自来也が声をかけた。振り向くと若干不安げな表情の自来也と、なぜか自来也と同じような表情を浮かべたパックンがじっと見つめている。ふたり揃ってのその表情になまえは思わず吹き出していた。



「……何が可笑しい」

「ごめんごめん、ふたりして神妙な顔してるからつい、」

「あのなあ……」



 ふたり同時に溜め息を零すのを見て、なまえもまた苦笑いを浮かべた。働き始めてひと月、毎日毎日こうして同じやりとりを繰り返しているのだ。最初のうちこそ、働くことへの不安もあって見送りが嬉しかったのだが、さすがにこう毎日だと嬉しがってばかりもいられない。自来也とパックンはもはや心配性な保護者としてなまえの中で認識されていた。



「もう! 大丈夫だってば。いってきます!」

「あっ、こら!」



 まだ何か言いたげなふたりを無理やり振り切ってなまえは駆け出した。数メートル離れたところで振り返ると、まだ玄関で立ち尽くしているふたりに向かって大きく手を振る。これもまた、働き始めてからの日課となっていた。



「なまえちゃん! おはようだってばよ」

「あ、ナルトくん。おはよう」



 家を出て数メートル、キラキラ光る髪を風に遊ばせて、手を振りながら駆けてくるナルトになまえは笑顔で挨拶を交わす。今日も自来也に修行をつけてもらうために家に向かうのだろう。相変わらず強くなることに貪欲なナルトがなまえの目に眩しく映った。



「今日は何時に終わるんだってば?」

「いつもと同じ……って、迎えに来なくていいからね?」

「なんでだってば?」

「う……ナルトくんだって修行で疲れてるだろうし、」

「? 平気だってばよ」

「や、本当に……悪い、し」



 もごもごと必死で言い訳するなまえを見下ろして、ナルトはニヤニヤと人の悪い笑顔を浮かべていた。帰り道が心配だからと自来也に頼まれて以来、ナルトは毎日欠かさずなまえを迎えに行っていた。それはナルト自身なまえが心配なのと、ふたりで並んで歩く帰り道の心地よさを好んでいたからだった。なんだかんだと理由をつけて断ろうとするなまえの反応を見るのも最近の楽しみのひとつとなっているナルトにとって、今もまた口ごもって困った表情を浮かべるなまえに緩む頬を抑えられない。



「嫌だってば?」

「……う、」



 眩しい笑顔を向けられ、こうして問われればもはやなまえに断る術はない。ナルトもそれを解っているからこそ毎回同じやりとりを飽きもせずに繰り返すのだ。



「……解った。じゃあ今日もよろしくお願いします」

「おう! 任せろってばよ」

「あ、はは……じゃ、いってきます」



 このやりとりもまた朝の日課となっていることに苦笑しながら、なまえは漸く一歩を踏み出す。頑張れってばよ。ナルトの大きな声が背中に届いてくるのも既に日常となっている。くるり、振り向いて負けじと手を振り返したなら、今度こそなまえはまっすぐ駆け出していった──



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