「川に、投げ入れられた……?」

「……」



 切羽詰まったようになまえの安否を確認した少女に、衝撃的な事実を告げられた自来也は信じられない思いでそれを繰り返した。虐待を受けていたであろう事実を調べていたはずが、まさか殺人まで、いや正確にはなまえは生きているため未遂ではあるが、そこまで行き着くとは夢にも思っていなかったのだ。



「何故……」

「あ、あたしの……、あたしのせい、なの……っ!」



 眉根を寄せ、唇を噛みしめる少女の顔には後悔の表情が浮かび、瞳からは透き通った雫が止まることなく溢れる。地面へと落ちたそれは少女と自来也の足元に色濃くいくつもの染みを残していった。
 この少女もまた、なまえと同じで苦しんでいる──そう感じた自来也は己の掌で少女の頭を包み、そっとその髪を乱しながら優しく撫でた。



「どういうことか……話してくれるかの……?」

「……っ、う、うん……」



 大きな掌のぬくもりと優しく髪を乱す感触に、久方ぶりに胸に湧き上がる安堵感。長らく人の優しさというものとは無縁だった少女にとって、目の前で優しく微笑む自来也は神にも仏にも見えた。この一年、ずっと心に秘めていたやり場のない思いもなにもかも全部、この人ならまるごと受け止めてくれるだろう──そう直感的に感じた少女は意を決したように視線をまっすぐ自来也と合わせたなら、凛とした表情で深く頷いていた──



「あたし……あの家に売られてきたんだ」

「……売られた?」



 訝しげな表情で問う自来也に少女は眉をハの字にして無理やり笑顔を作るが、それはあまりにも痛々しく、自来也の心に深く突き刺さってくる。



「親の借金のカタにね? でもこんな寂れた町じゃ返すための働き口もないし、多分親も返せないの、解ってたんだと思う」

「……」

「売られたことは別にいいんだあ……売られなきゃ、遅かれ早かれ飢え死にしてたと思うし、さ」



 俯きながらどこか他人事のように淡々と自分のことを話す少女に、自来也はかける言葉も見つからないまま、それでもずっと少女の頭を撫で続ける。



「あの家の人たちは……自分たちがこの世でいちばん偉いって……あたしたちみたいな人間には何をしてもいいって、それこそ虫けらを見るような目であたしたちを、見てた」

「……」

「朝から晩まで働かせるのはもちろん、ちょっとでも機嫌が悪いと……ほら、」



 そういって自分の袖を捲った少女は傷だらけの自分の腕を黙って自来也に見せた。そこには大小様々な傷跡が細い少女の腕に痛々しく残されていて、自来也は思わず眉根を寄せる。



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