茫然としてその光景を見ていたシカマルは、シカクにつられるように一歩踏み出した。しかしそれはすぐに肩に置かれたカカシの手によって阻まれる。一瞬息を詰めたシカマルだったが、瞬時に自分の置かれた状況を理解し足を止めた。 自分は、ここにいるべきじゃない── 先ほどのなまえの取り乱しようはどう考えても異常だった。そして、そのきっかけを与えたのは他ならぬ自分自身。そんな自分がついていたところで目を覚ましたなまえの反応は火を見るより明らかだろう。 「……親父、先に帰るぜ」 「……好きにしろ」 なまえを抱きかかえたまま振り返ることなくシカクが返したなら、シカマルは踵を返して歩き出して。その足音が遠ざかっていくのを耳にしながら今度こそシカクは家の中へと入っていった── 「先輩……」 事の一部始終を見ていたヤマトは、未だ去っていくシカマルの背を見つめたままのカカシに声をかけた。その顔には明らかに戸惑いの色が浮かんでいる。保護したなまえを送ってみれば、伝説の三忍のひとりである自来也、上忍班長のシカクに先輩上忍カカシまでが揃っていたのだから当たり前といえば当たり前。 余計な詮索はしない主義のヤマトではあったが、先のただならぬなまえの様子にも引っかかるものがあったのか、その瞳はまっすぐにカカシを見つめている。 「テンゾウ」 「……はい、」 「……こないだ資料室で見たヤツ、覚えてる?」 言われてヤマトはああ、と頷いた。母娘と思われるふたりの思わず目を背けたくなるほどの惨たらしい姿が脳裏に浮かぶ。 「確か、十三年前の事件でしたよね」 「ああ……」 それきり言葉を発しないカカシを、ヤマトは訝しげに見つめる。 今聞こうとしていたのはなまえのこと。なのに自分の目の前にいる先輩はなぜそんな話題を持ち出してきたのか── 嫌な予感が頭をもたげてくるのを感じた次の瞬間、カカシの口から紡がれた事実にヤマトは揺さぶられるような衝撃を頭に感じた── 「あれはなまえと……なまえの母親、なんだよ」 . |