明らかに様子のおかしいなまえを自来也もシカクも、ただ息を飲んで見つめる。焦点の合わない瞳は忙しなく左右に揺れ、夜の闇を見つめていた。



「な、に……してんだよ」



 まるで生気が抜けたような顔のなまえにシカマルが眉根を寄せて肩を掴み揺さぶった瞬間──



「あ……あ、あ……っ」



 体をガクガクと震わせて目の前のシカマルを映す瞳には怯えの色が浮かび、呼吸も覚束ないのか短く浅い息をなまえは何度も吐き出す。



「おい……?」



 あまりにも異常な反応をするなまえに、そこにいる全員が動けずに固唾を飲む。
 ずるり。やがて体の力が抜けたように地面へと座り込んだなまえは、まるで自分の身を守るように自分の体を抱きしめて俯いていた。



「おい……まだ話は、」

「……さ、い……」

「は?」



 ぽつり。小さく震える声が微かに聞こえたものの聞き取れなかったシカマルがなまえの顔を覗き込んだ瞬間──



「あ、ああ……っ! ごめんなさい! 許して下さい!」



 頭を庇うようにして両腕を上げたなまえが、悲痛な叫びを上げていた。



「なまえ!」

「いやああっ! 私、何でもするから! だから……っ、」



 半ば半狂乱になりながら必死で泣き叫ぶなまえを自来也もシカクも信じられない思いで見つめる。
 あの惨たらしい事件の後、なまえは親類の元へと預けられていった。心優しい母親の育った家だと安心したからこそ、なまえが幸せに暮らしていると信じて疑わなかった。なのに──



「誰か……っ、誰か助けて!」



 目の前の光景は、いったい何なんだ──これほどまでに怯える何かが、自分の知らない十三年の間にあったというのか?
 髪を振り乱して子供のように泣きじゃくりながら、居もしない誰かへと必死で謝るなまえの姿。それはあまりにも衝撃的にシカクの胸へと突き刺さる。



「なまえ……」



 ふらり。悲痛な叫びを上げ続けるなまえへとゆっくりと近付いたなら、シカクは力を込めてその体を抱きしめた。



「いやあああっ!」

「なまえ……」

「は、放してっ! やああっ!」

「なまえ…! 大丈夫だ、大丈夫だから……」



 腕の中でなおも激しく暴れるなまえをそれでもシカクは離さない。ここで放してしまえば、おそらくもう前のなまえには戻れないだろうという確信がシカクにはあった。



「あ……あ、あ……」

「なまえ……」

「シ、カ……助け、て……」



 がくん。今度こそ力の完全に抜けた体はシカクの腕の中で崩れ落ちた。 涙の痕の残る頬をそっと拭ってやったなら、シカクはなまえの体をそっと抱き上げて。



「気付いてやれないなんて、オレは父親失格だな……」



 ぽつり。自嘲気味に吐き出したなら、自来也に促されるまま家の中へと入っていった──


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