その場にいる誰もが、ただ黙って自来也に縋りついて泣くなまえを見つめる中、ようやく到着したシカクはその光景を目にして眉根を寄せた。



「自来也さま」

「シカクか……すまんのう、呼び出して」

「いえ」



 小さく頭を下げたシカクは未だ自来也の胸に顔を押し付けたままのなまえの背中を見つめていた。



「なまえ」



 びくり。シカクが静かにその名を口にした瞬間、なまえの体が反射的に強張った。
 おそるおそる振り返ったなまえの目に、切なさを滲ませたシカクの視線が絡むが、なまえはそれを直視出来なかった。
 シカクの姿にどうしてもシカマルが重なって見えてしまい、堪えきれずになまえは視線を逸らして俯く。



「なまえ……?」

「ご、めんなさい……帰って、ください」

「!?」



 シカクが自分のことを心配してくれているのは理解していた。けれど、シカマルと同じ面影を宿すその顔を見るのは、今のなまえにとって苦痛以外のなにものでもなかった。
 ぎゅ。固く目を瞑り、自来也の着物へと顔を押し付けたなまえの体はがたがたと震えていて。
 そんななまえの様子に声をかけることを諦めたシカクが拳を握りしめた瞬間──



「てめえ……いいかげんにしろよ」

「!」



 明らかに怒気を含んだ聞き慣れた声が背後から響いたかと思うと、暗闇からその姿を現したシカマルにシカクと自来也、そしてなまえは息を飲んでいた──















 どうして──思う間もなく、つかつかと近寄ってくる足音になまえの鼓動は激しく脈打つも、ただ自来也の着物を強く握りしめ、俯くことしかできない。
 ぴたり。やがて自分のすぐ傍で止まった足音になまえはその身を固く竦ませた。



「おい」

「……」

「さんざん迷惑かけといて帰れだ……? ふざけんなよ!」

「っ、」

「親父が……親父がどれだけてめえのこと心配してたと思って……っ、」

「シカマル!」



 シカクが制止の声を上げてもシカマルの苛立ちは治まらない。それどころかこれだけ迷惑をかけられてなお、まだなまえを庇おうとする父親に更に苛立ちが募る。



「ガキじゃあるまいし、いつまでも甘えてんじゃねえよ!」

「やめろ!」

「うっせえ! おい、聞いてんの、か……」



 ぐ。いつまでも自来也の胸に顔を押し付けたまま動かないなまえに苛立ち、その腕を強引に掴み振り向かせた瞬間、シカマルは言葉を失った。
 振り向いたなまえの瞳はすっかり色を失い、半ば放心したように口をぱくぱくさせる姿は、最早なまえのこころが限界を迎えつつあることを知らせていた。



「なまえ……?」



 いち早く異変に気付いたシカクが素早くなまえに駆け寄るも、その瞳は最早誰のことも映してはいない。


 ただ夜空に浮かぶ月だけが唯一、冷たい光をその瞳へと映していた──




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