「シ……シカクさまあっ!」

「ぐえっ!」



 突然の叫び声と、後ろから伸びてきた腕が首に巻きつき、シカマルは一瞬呼吸が止まった。
 ぐ。いまだ首に巻きつく腕を力任せに振り解き、シカマルは自分の喉を押さえて噎せながら振り返った。



「てめえ……ゴホッ、ゴホッ……なに、すん……」



 文句を言いかけたシカマルだったが、その犯人を視界に捉えた瞬間、言葉に詰まった。
 きょとん。不思議そうに首を傾げるその人物は、はじめて会うはずなのになぜか懐かしい──そんな不思議な感覚をシカマルに与えて。



「あの……シカクさま?」



 まじまじと見ていたのだろう、シカマルはその人物のおずおずとした声にハッと我に返る。



「ああ……わりい。けどオレはシカクじゃねえぜ?」

「え?」

「オレの名前は奈良シカマル。んで、シカクはオレの親父な?」

「「……」」



 ぷしゅう。シカマルの言葉ではじめて自分が人違いをしていたことに気付いたその人物の顔は、一気に茹蛸のように真っ赤になった。



「ひゃああああっ! ごめんなさいゴメンナサイーッ!!」



 ペコペコ頭を下げる様は、まるでどこかのお土産物の人形のようでシカマルは思わず吹き出す。



「ま……いーけどよ? とりあえず親父に会いたいんなら家来るか?」

「は……はいっ! ぜひっ!」

「んじゃ行くか……と、お前名前は?」

「はいっ! なまえと申します!」



 にこにこ。嬉しそうに答えた名前──なまえという名前に、やっぱりどこか懐かしい感覚を覚えたシカマルは首を捻る。



「なあ──オレ、お前とどっかで会ったか?」



 どうにも気になって、思わず口にした疑問。しかしなまえはそれには答えない。ただ笑って、ひとことだけ零した。



「すぐに、解りますよ」

「……?」

「いいから早く行きましょう! ね?」

「あ、ああ……」



 微妙にごまかされた感が否めないが、とりあえずまあ解るんならいいか。生来のめんどくさがりが頭をもたげて、シカマルはそれ以上追求するのをやめて歩き出した。


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