シカクの気配を探りながら、シカマルは里内を走っていた。
 おそらくなまえのところへ向かっただろうことは推察できた。しかし、奈良家を出たなまえが今どこに身を寄せているかなど知る由もないシカマルには心当たりなどあるはずもない。
 はあはあ。呼吸を荒げながら走るも、シカクの気配をまったく感じられず心には焦りばかりが募っていく。
 ぐい。流れる汗を拭って再び走り出そうと顔を上げた瞬間、目の端に映った人影にシカマルは目を見開いた。



「アイツ……」



 それは、間違いなくなまえの姿だった。隣にはヘッドギアを装着した忍が穏やかな微笑みを浮かべて歩いている。
 その光景を見たシカマルの心には、落ち着いたはずの怒りの感情が再び湧き上がってきていた。
 おそらくなまえが原因で出かけただろうシカクの憂いに満ちた顔。そんな父親の苦悩を余所に、何でもない顔をして男と歩いているなまえがただ、腹立たしかった。
 今すぐ飛び出して怒鳴りつけてやりたい。そんな衝動に駆られながら、それでもシカマルは奥歯を噛みしめて歩いていく二人の背中を睨みつけて。尾行するのに充分な距離をとったなら、再びシカマルは歩き出した──














「あの、……聞かないんですか?」



 ぽつり。頭ひとつ分下から聞こえてきたのは頼りない声。おそらく倒れていた理由、そして泣いていた理由を一切聞いてこないことが不思議だったのだろうとヤマトは思う。



「……聞いて、欲しいのかい?」

「っ! い、え……」

「じゃあ聞かないよ。誰にだって言いたくないことのひとつやふたつあるだろうしね」

「あ、ありがとう……ございます」



 ほう。なまえが吐いたのは安堵の息か。少しだけ心穏やかになったなまえの頭に静かに掌を乗せて髪を乱しながら、ヤマトは静かに微笑んだ──










 やがて見えてきた自来也との家。拠り所へと辿りついたような安心感が胸に沸き起こったなら、なまえの足は自然にスピードを上げていた。
 そして──家の前で立つ自来也の姿を目にした途端、まるで母親を見つけた迷子のように自来也の名を叫びながらその広い胸へと飛び込んでいた。



「なまえ! 無事だったか」

「じ、自来、也さまっ……」



 自来也の全身はなまえを暖かく、そして痛いほどに包み込み、自分がどれほど心配させていたのかをなまえの心に思い知らせる。



「ごめ、んなさい……心配かけて……ごめんなさい……」

「いいんじゃ……こうして無事に帰ってきたんだからのう」



 ぐ。再び強く自来也の腕がなまえの身を包んだなら、なまえの瞳から一筋、温かい滴が零れ落ちた。



 それは、喜びの涙だった──



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