もう二度と会わないと心に誓ったシカマルとの再会。心臓がきりきり痛んで顔を上げることすら出来ずになまえは唇を噛みしめてただ俯く。



「よお! 遅かったじゃねえか」

「キバ……昨日の今日でんな簡単に都合つくかっつうの……」

「紹介したい子って誰よ? キバのことだから彼女って訳でもないんでしょ?」

「あ、ひで。何気に傷付くし」

「いいから早く紹介しなさいよ」

「ちぇー……わあったよ」



 ブツブツ文句を言いながらも、いのに急かされたキバは自分の後ろに隠れるように立っていたなまえを前へと促した。



「……なまえちゃん!」

「!?」



 いのの声にシカマルはハッとして顔を上げた。
 俯いたまま、ひとことも発せずに立つ姿はあの日のなまえとまったく同じで。ぐっと拳を握りしめて何かを堪えるような表情のなまえにシカマルはかける言葉が見つからない。



「……? お前ら知り合いだったのか?」



 微妙な沈黙を不思議に思ったキバがなまえとシカマルに交互に視線を向けてそう問えば。
 ぐ。顔を上げたなまえは笑顔を浮かべてシカマルへと右手を差し出した。



「は、はじめまして! なまえです!」

「!」



 ぷるぷる。差し出されたなまえの手は小刻みに震えていて、笑みを浮かべている口元はぴくぴくと引きつって明らかに無理をしている。
 傍らで見ていたいのとチョウジはそんななまえを黙って見つめる。
 あんなに楽しそうにシカマルのお嫁さんになるんだと笑っていたなまえの明るさなど微塵も窺えない。感じるのはシカマルに対する畏れだけだ。
 シカマルも同じことをなまえから感じていた。あの日とまるで違うなまえの態度と雰囲気に罪悪感が顔を覗かせる。
 はあ。溜め息をひとつ吐いたシカマルは差し出されたなまえの手をそっと握った。



「ああ……よろしくな」



 それは、もう怒っていないというシカマルなりの意志表示のつもりだった。いつまでもズルズルと後味の悪い感情を引き摺るのも嫌だったし、何より自分が許すことでまたなまえが奈良家に顔を出すようになれば、との計算もあった。
 こくん。小さく頷いたなまえにシカマルは内心ホッと安堵の息を吐いた。
 が、それも束の間。次の瞬間なまえは逃げるようにシカマルの手を離し、キバのところへと駆けていった。
 茫然と離された手を見つめるシカマルにいのとチョウジが心配そうに歩み寄る。



「シカマ、」

「んだよ……あの女」

「え?」



 きっ。不機嫌そうに眉間を寄せたシカマルはそのままつかつかとキバと楽しそうに話すなまえの元へと歩き出した。



「おい」



 びくり。怒気を含んだシカマルの声になまえの体が揺れた。
 振り返りたくない。今度シカマルに何か言われたらもう二度と立ち直れない。どんどん激しくなる鼓動に、なまえは気が遠くなりそうな感覚に陥る。
 そして、それは現実のものとなってシカマルの口から吐き出された──



「もう二度と、オレの前に顔を出すんじゃねえ」


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