翌日、なまえはひとり緊張しながら河原でキバとナルトを待っていた。
 キバとナルトの友達なら良い人たちなのは間違いないのだが、いかんせん人見知りする質のなまえは昨日から心臓がドキドキして堪らない。



「はあ……なんかしてないと心臓もたないよ……。あ、そうだ挨拶の練習でもしとこうっと」



 少しでも緊張を紛らわそうと、なまえは傍らの木に向かってブツブツと練習を始めた。



「はじめまして、なまえです……。うーん…暗いか? なまえでーす、よろしく! ……弾けすぎかな……」



 夢中になって挨拶の練習をするなまえは気付いていなかった。挨拶するべき面子が既に自分の背後にいることを。なおかつ必死で笑いを噛み殺していることを。



「……うん、やっぱりシンプルが一番だよね! はじめまして、なまえです! よろしくお願いします!」

「ぶ……っ!」



 ひとり納得して満足げな表情で振り返った途端、堪えきれなくなったキバがとうとう吹き出した。



「キ……ッ、キバッ! いつからそこに……っ!?」

「少し前からだな。お前呼んでも反応ねえし、面白えから黙って見てた」

「や。あ、あれは……」



 恥ずかしくてしどろもどろになるなまえは真っ赤になってもう俯くしかない。正に穴があったら入りたい気分だ。



「なまえちゃん、気にすることねえってばよ?」

「ナルトくん……」



 にか。ナルトの声になまえが顔を上げると、変わらず屈託のないナルトの笑顔がそこにあって。
 つられるように笑ったなまえの頭をナルトの手がくしゃくしゃと掻き乱した。



「すぐにみんな慣れるってばよ?」

「……フォローになってないし、ナルトくん……」



 がっくり。天然な無邪気さでフォローするナルトになまえが肩を落とした瞬間。



「ナルトーッ!」



 桃色の綺麗な髪を振り乱した女の子が物凄い形相でナルトへと突進したかと思うと、見事なアッパーをナルトに食らわせていた。
 そのまま地面へと倒れ込んだナルトへズカズカと歩み寄ると、女の子は指をビシッと指して。



「アンタそれでフォローしたつもりなの!? ほんっと馬鹿なんだからっ!」

「ご、ごめんってばよ。サクラちゃ〜ん……」



 ふん。鼻息荒くナルトを見下ろした女の子は、くるり、なまえへと振り返り片手を差し出すと。



「春野サクラです。よろしくね?」



 先ほどナルトをぶっ飛ばした人物とは思えないほど華やかに微笑んだ。



「あ……なまえです。こちらこそよろしくお願いします」



 きゅ。サクラと握手するも、なまえは吹っ飛んだナルトが気になって仕方がない。
 チラチラと視線を向けるなまえの前にスッと差し出された白い右手。



「ボクはサイ。ナルトなら大丈夫だよ? いつものことだから」

「え……あ、そうなんだ?」

「うん、サクラもこの通り凶暴だし」

「サイッ! アンタはいつも一言多いのよっ!」

「ぶっ!」



 ナルトに続いて吹っ飛んでいくサイを見て、なまえはサクラだけは怒らせないようにしようと心中冷や汗をかきながら思った。



「なまえ、こっち来いよ。オレの仲間紹介してやる」

「あ、うん……」



 未だ倒れたままのナルトとサイが気になったものの、なまえはキバに呼ばれるまま素直に従う。



「こっちの顔隠してんのが油女シノで、こっちが日向ヒナタな」



 くい。キバの親指が指す方へと視線を向ければ、モジモジする可愛らしい女の子と物静かそうな男の子と目が合った。



「……油女シノだ」

「日向ヒナタです……あの、よろしく」

「なまえです。こちらこそよろしくお願いします」



 ぺこり。頭を下げた瞬間、大きな掌がなまえの髪をぐしゃぐしゃと掻き乱して。
 驚いて顔を上げたなまえの目にキバの笑顔が映っていた。



「なーに畏まってんだあ? さっきのアレで大体お前がどんなヤツかバレてるっつうの」

「いや、キバ。それとこれとは別だ。何故ならオレたちは一応初対面なのだからな」

「そ、そうだよキバくん……礼儀として挨拶はちゃんとしないと」



 天真爛漫なキバとは反対の律儀なふたりになまえはただポカンとするばかり。
 それでも差し出された手の温かさにキバ同様の優しさを感じ取り、なまえはさっきまでの緊張が和らいでいくのを感じていた。



「おーい! 遅くなってごめんねー?」



 たた。背後から聞こえてきたのは声と足音。
 聞き覚えのあるそれに振り向けば、金色の髪を揺らしながら走ってくる見覚えのある女の子。
 そして、その後ろからだるそうに歩いてくる影になまえは思わず息を飲んでいた──



「シカマル……」



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