「──先輩? なにしてるんです?」



 待機所内の資料室。棚に寄りかかり一冊の資料を眺めるカカシに声をかけたのは、暗部の元後輩。
 にこやかな笑顔を浮かべ興味深げに資料を覗き込んだ男は、そこに貼られた写真を見て思わず眉を寄せた。



「これは……酷いですね」

「……」



 後輩の呟きにカカシも無言で頷き、静かに資料を閉じて小さく息を吐く。
 軽い好奇心で調べ始めた十三年前のこと。しかし、そのあまりにも惨たらしい過去に激しい後悔の念が胸に押し寄せる。



「先輩……?」

「いや……なんでもない。悪いけど、オレがこれ見てたのは内緒にしといて?」

「はあ……」



 不思議そうな顔で頷いた男は再び資料に視線を落とした。映っていたのは母娘と思われる女性と小さな女の子。



「……まだ、犯人は捕まっていないんですね……」

「ああ……」



 夕陽が沈みかけた資料室。薄暗さが増していく室内の空気は沈黙で更に重苦しいものになっていた。



「僕、明日は任務で朝早いのでこれで……」

「テンゾウ」



 くるり。踵を返しかけた男はカカシの声に不満げな顔で振り向いて口を尖らせた。



「先輩、僕は今ヤマトとして動いてるんで……」

「もしお前ならさ……犯人をどうしてやりたいと思う?」

「……?」



 質問の意図が解らずに訝しげな視線を向ける男にカカシはふ、息を吐く。



「ごめん、なんでもないよ……」

「……? じゃあ僕はこれで」

「ああ、ご苦労さん」



 去っていく男の後ろ姿を見送って、カカシは再び資料に視線を落とす。
 一体何故なまえは木の葉に戻ってきたのか──こんな惨い事件に巻き込まれたなら、普通は嫌悪するべき場所と認識して足を向けるのも嫌なはずだ。



 復讐──



 ふと頭に浮かんだ文字に、なまえとかつての教え子の顔が重なって。



「……オレの思い違いならいいけど……」



 ふるり。軽く首を横に振るとカカシは資料を棚に戻し、そっとその場を後にした──




[ 10/10 ]

|→



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -