「おじさーん、じゃがいもと人参、それから玉ねぎ下さーい!」



 商店街の八百屋の前。元気に叫ぶなまえの声にキバは足を止めた。



「よう! なまえじゃねえか」

「あ、キバ!」



 振り返った顔には屈託のない笑顔が浮かんでいて、キバは内心ホッとした。



「買い物か?」

「うん! 今日はたくさん作らなきゃだから」

「あいよ! お嬢ちゃん」

「あ、ありがとう! おじさん」

「……それ、持てんのか?」

「んん……っ! へ、いき……っ」



 ずっしり。袋2つにパンパンに詰まった野菜を片腕に1つずつぶら下げたなまえの顔は力が入っているのかうっすら赤みが差していて。
 明らかに無理しているその様子にキバは思わずなまえの手から袋を取り上げた。



「キバ……?」

「……持ってやるよ」

「え……? いいよ、悪いし…」

「ばーか、無理すんなって。行くぞ」



 そのまま踵を返して歩き出すキバをなまえは慌てて追いかけた。



「キバ! そっちじゃないから」

「おー? 悪い悪い」



 ふたり並んで歩く後ろ姿──楽しそうに笑い合うキバとなまえを見つめる影。



「なんで……アイツがキバと……?」



 ぽつり。信じられないといった顔で呟いたのは任務帰り、帰路についていたシカマルで。
 もう奈良家には来ないと言っていたらしいなまえと、その隣に何故か同期のキバがいることにシカマルは驚きを隠せない。
 声をかけようか迷った挙げ句、結局シカマルはそのままふたりを見送って。
 はあ。複雑な想いを胸に溜め息を吐いたなら、シカマルはふたりの歩いていった方とは逆の道へと歩き出していた。









「ありがと、キバ」

「おー、気にすんな。お前ちっせえんだし?」

「……言うほど小さくないんだからね?」

「へいへい」



 むう。小さくむくれるなまえを軽くあしらってキバはくつくつ笑う。



「ところでお前ん家、まだ?」

「あ、ほらあそこ!」



 見えてきたのはこじんまりした小さな一軒家。
 がちゃり。開け放たれた扉の奥から現れた見慣れた姿を目にした瞬間、キバは目を見開いた。
 風呂上がり、ほかほかと上気した頬を掌で扇ぎながらなまえを出迎えたのは同期のナルトで。



「おかえりだってばよ、なまえちゃん! オレってば腹減って死にそうだってばよ」

「あ、ごめんね? 今すぐ作るから」

「おう! 楽しみだってばよ……ん!?」



 ばちり。なまえの後ろに立つキバの存在に気付いたナルトもまた、目をまんまるにして立ち止まった。



「キバ!? なんでお前がなまえちゃんといるんだってばよ?」

「そりゃこっちの台詞だ」

「……? ふたりとも知り合いなの?」



 騒がしい玄関先。袋を手にしたままきょとんと問うなまえをナルトとキバは呆気にとられて見つめたのだった。




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