「自来也さま、オレのことも一応紹介しといてくれませんかね……?」



 それまで黙っていたカカシと呼ばれた覆面男がなまえと自来也の前に立った。



「なんだ? 自己紹介しとらんかったのか?」

「……オレは怪しいそうなんで?」



 ちらり。含みを持たせたカカシの視線になまえは思わず口を尖らす。



「だ、だって……顔隠してるし、」

「まあ、確かに見た目は怪しいかもしれんが、カカシは一応ワシの小説のファンだからのう」

「え……?」



 振り向いた先。目の前のカカシの手にあるのは紛れもなく先日見せられた自来也の小説で。
 一部だけとはいえ、内容を知っているなまえは顔をひきつらせ思わず自来也の背に隠れた。



「はっはっはっ! なまえはまだまだお子様じゃのう?」

「うう……」



 真っ赤な顔で唸るなまえに自来也は豪快に笑ってなまえの頭を撫でた。



「コイツははたけカカシ。里の上忍でナルトの先生といったところだのう」

「せん、せい……?」

「そういうこと」



 ポカンと見つめるなまえの前で、やれやれといった表情のカカシは本を腰のポーチにしまってちらり、なまえへと視線を向けた。



「これくらいで赤くなるなんて、お子ちゃまだね〜? なまえちゃん」

「う……」

「そんなんじゃ、彼氏もできないよ?」

「っ、……」



 きゅ。唇を噛みしめたなまえの脳裏をよぎったのは、あの時のシカマルの顔。
 大嫌いだと宣言した目。なまえに対する嫌悪感が色濃く表れていて、きり、胸が痛む。
 じわじわと心臓を締めつける感覚に堪えきれず、なまえが俯いた瞬間。
 ぽん。温かい感触が背中に優しく触れ、ゆっくり、ゆっくり、鎮めるように何度も上下していく。



「大丈夫だ、なまえ……」

「じ、自来也さま……」



 温かく見守るような自来也の眼差しに、心が落ち着きを取り戻していくのを感じて、なまえは自来也へと微笑む。



「ナルト。なまえにお前の忍術を見せてやってくれんかのう?」

「ふあ?」



 未だ弁当にがっついていたナルトは自来也の言葉に顔を上げて。
 口の中のものを慌てて飲み下してナルトはなまえに向かって二カッと笑った。



「見たいか?」

「う、うん! さっきの影分身とか!」

「おう! じゃ行くってばよ!」



 ばたばた。走っていくふたりを目で追う自来也をカカシはじっと見つめていた。
 二週間前から暮らし始めたという割に、先ほどからの自来也の言動はカカシには理解できない程なまえを気遣っている。
 人に頼まれたと言っていたが、それにしても疑問が多すぎる。



「のう、カカシ?」

「……はい」

「いろいろ疑問はあるだろうが、ひとつだけ言っておこうかの……」

「……」

「ワシはあの娘を傷つけたくない……それは頼んできたヤツの願いでもある」

「なにが……あったんですか?」



 思わず口にした疑問。
 ぴくり。自来也の表情が途端に険しくなり、ぴりぴりした雰囲気が辺りに漂う。



「……気になるかのう?」

「ええ、まあ……」



 すく。立ち上がった自来也の視線の先。ナルトの影分身に驚嘆の声を上げて笑うなまえをしばらく見つめて。
 ふう。ひとつ溜め息を吐くと自来也は目を伏せた。



「ワシの口からは言えん……しかし気になるなら十三年前のことを調べてみるといい……」

「十三年前……?」



 こくり。黙って頷いた自来也はそのまま笑い合うなまえとナルトへと一歩踏み出して。



「うおーい! そろそろ修行を再開するかのう」



 先ほどまでのぴりぴりした雰囲気など微塵も出すことなく、ふたりに向かって明るく手を振った。




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