運命だなんて無粋な言葉で飾らないで

美恋の話を聞いている内に、遠い昔の記憶が戻ってきた。
水無月家を助けたのはほんの気まぐれと、偶然だった。俺の中では記憶に留める程の出来事じゃなかった為、すっかり忘れていた。
その程度の出来事に水無月家の人間は、律儀にこうして礼儀を通してくる。あっぱれと言うか、お人好しと言うか。
あーこんな風に律儀に契りを果たそうとするヤツは、ヅラが気に入りそうだな。そういえば、当主の側にガキがちょろちょろしてたような…。ほんの一刻だけ遊んでやった気もする。

「あーもしかしてお前、あの時のガキか!!?」

美恋を指差しながら、声をあげる。
美恋は俺の迫力に一瞬目を丸くしたが、直ぐに愛らしい笑みを浮かべた。

『やっと思い出してくれたんだ、銀ちゃん。こうして約束を果たしに来ました』

「水無月家の宝って…お前?」

『私は一人娘だから。改めて、銀ちゃんの嫁になる水無月美恋と言います。よろしくお願いします』

美恋は床に正座をすると三つ指をつき、深々と頭を下げた。
どういう理由で美恋がここに来たのかは、概ね理解出来た。とりあえず、水無月家側の事情は分かった。だか、俺の意思はどうなんだ?俺の意思は無視なのか?
そりゃ、美恋はすんごい美少女だし後数年もすれば、美人のお姉さんになること間違いなしだろうが…。男として心が揺るがないわけはない。
とは言っても、今現在美恋はまだ17歳の未成年だ。未成年……流石にまずいだろう!未成年だぞ!未成年!
神楽や新八、ババァやお妙あたりにロリコンだとか犯罪だとか、しばらく言われ続けられそうだ。

「よくも知らない男の嫁になれとか言われて、お前は平気なのか?いくら当主が決めたからといっても、お前にだって意思はあるだろっ」

『お父様とお母様が見初めた人なら、きっと素晴らしい人だから』

「いや待て、よく考えろ!てめぇの未来を、てめぇの一生を左右する事なんだぞ!本当にそれでいいのか?」

突然降りかかってきた結婚話に困惑しながら聞き返すが、俺の質問に美恋は何度も頷いた。

『よく考えました。あの…銀ちゃんは、私ではダメですか?』

「……っ!?」

俺は目の前で、不安そうな表情をしている少女を見つめる。
おい、おい、そんな顔で銀さんを見ないでくれ!何かいけない大人になったような気がしてくるじゃねーか。勘弁してくれ。

『ほんの一瞬だけど遊んでもらって、凄く嬉しかった。頭を撫でてくれた時の銀ちゃんの笑顔が、ずっと忘れられなかったの。だから私は、銀ちゃんのお嫁さんです』

にっこりと笑う美恋。
本当に嬉しそうに笑うから、思わず見とれてしまった。俺みたいな男の嫁になる事を、嫌がるどころか自ら申し出てくる少女。悪い気になるはずがないだろ。
もう、俺の意思なんてどうでもよくなった。俺の心の中は嫌悪感より、嬉々的な感情に押されている。答えはそれだけで十分だ。

「後悔しても知らねーぞ」

『絶対にしません』

言い切る美恋の顔は真摯的なもので、コイツの決意が伝わってきた。
まだ17歳の美恋だが、いろんな覚悟を背負ってここまでやってきたのだ。例え銀時に断られようとも、諦めるつもりはなかった。もちろん水無月家当主の契りを果たし、家の名誉を守る為でもあったがやはり一番は、初恋の人でもある銀時ともう一度会いたかったからだった。

「俺と結婚なんかしたら、幸せにはなれねぇぞ。不幸な人生一直線だ。どうなっても知らねーからな」

『大丈夫です。どのような不幸が訪れようとも、私は銀ちゃんと一緒なら幸せです』

「…――美恋」

彼女の言葉にずきゅんと、心臓を撃ち抜かれた。不覚だが、未成年のガキにときめいてしまった。

「まぁ、なんだ…その…よろしく」

少し照れながらそう言うと、美恋は頬を赤らめながらも笑顔を返してきた。
ここまで真剣さを見せられて放り出すのは、男としてどうかと思う。相手は遠い日の約束を果たしにきたのだ。だったら、自分も真摯に向かうべきじゃないだろうか。

『はい、銀ちゃん』

美恋は俺の言葉に、力強く頷いた。それは、それは嬉しそうに。
ぐっと引き結んだピンク色の小さな唇が、愛らしい。更に桜色に染まった顔は、思わず見とれるくらい可愛かった。

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