突然ですが許嫁ができました
穏やかな日曜日の朝。
突然呼び鈴が鳴り、俺はうっすらと目を覚ました。
こんな早朝から一体誰なんだと思いながら、夕べの酒がたたり再び夢の国へと吸い込まれようとする。
が、鳴り止まない呼び鈴に俺はダルい身体を起こし、夜着のまま玄関口まで歩いていく。見ると、扉の磨り硝子に人影が映っている。どうやら、いたずらの類ではないらしい。
尚も鳴り続ける呼び鈴。
無理矢理起こされた事もあり、俺の額に怒りマークが浮かぶ。
怒りを表現するかのように、力を込めてガラッと扉を開けた。
「しつこいんだよっ!朝早くから何のようですかっ?嫌がらせですかっ?」
声を荒げた俺の目に飛び込んできたのは、可憐な美少女の姿。
清楚なピンク色の生地に、桜の刺繍を施してある着物を着た、美しくも愛らしい少女だった。どこぞのお嬢様という感じだ。
おまけにめちゃくちゃ若い。どうみても10代だ。10代の少女が万事屋(うち)に、一体どんな用があるというのだろう。
もしかして、仕事の以来か?家出か、消息不明の親を探して欲しいみたいな。
奇妙な緊迫感が辺りを漂う雰囲気の中、少女は恥ずかしそうな笑みを浮かべながら俺に話しかけてきた。
『あの…坂田銀時様ですよね?』
「ああ。そういうおたくは?何処かで会いました?それとも仕事以来とか?」
『私の名前は、水無月美恋と言います。お久しぶりです。銀時様…いえ、銀ちゃん』
「……」
初対面の少女にいきなり、ちゃん付けされてしまった。
つか、彼女の態度からするとどうも俺の事を知っているようだ。
美恋という少女の顔をジッと眺めて記憶を辿っていくも、やはりこの顔に見覚えはない。
なら、記憶がない時に何かしでかしてしまったんじゃないのか?
酔っ払って帰った日の事を必死に思い出そうとするが、そもそも記憶のない出来事を思い出せるはずもなく…。
「……あのー、失礼ですがお年は?」
『17になりました』
「……っ」
やっぱ、未成年かよぉぉぉぉおっ!!
まさか俺は未成年相手にあんな事や、こんな事をしちまったんじゃ!?
いかがわしい妄想が、頭の中を駆け巡っていく。
マジ、ヤバいだろ俺。銀さん絶体絶命の大ピンチ!
と、とりあえず謝っておこうと思った。
「あのーすみません。酔った勢いで何かしちゃったんなら……っ」
言葉を発したのと同時に、その場に膝をついて
「すみません、すみませんっ!悪気はなかったんですっ!」
土下座をして、何度も何度も少女に謝った。
とりあえず、誠意だけでも示しておこうと思ったからだ。
彼女は圧巻されたのかしばらく黙っていたが、
『何を謝っているのかわからないです。私、銀ちゃんに何もされてませんし』
「え……」
美恋の言葉を聞いて顔を上げた俺は、呆気にとられながら彼女の顔を見つめる。
困ったように微笑む美恋。
線が細く、白い肌に大きな瞳。すべてのパーツが小作りでまるで人形のように整っていて、改めて美しい少女だと思った。
『…銀ちゃんは、私の事忘れちゃったの?』
美恋が、悲しそうな目を向けてくる。
えっ、何、俺とあなたは結構親密なお知り合いだったりするんでしょうか!?
全身から変な汗が噴き出てきた。顔は青ざめ、噴き出た汗が頬を伝う。
「あ、え、そのー」
めちゃくちゃ戸惑ってしまう。
そんな俺に美恋の放った言葉が、トドメを刺す。
『私は……銀ちゃんの許嫁です』
「…っえ、えぇぇぇぇぇぇえーっ!!?」
もちろん、雄叫びを上げずにはいられなかった。