二人の関係性において模範的な答え

波乱な1日が終わり、夫婦として初めての朝を迎えた。隣を見ると、美恋が寝ていたはずの布団が綺麗に畳まれ、隅の方に積み重なっていた。時計を見ると、まだ6時。一体、何時から起きてるんだか。
窓から陽の光がうっすらと差し始め、今日も昨日と変わらないおてんとうさまが、俺達を照らそうとしている。一見何も変わらない日常が始まろうとしているが、俺の人生は大きく変わってしまった。つまり、この俺にヨメが出来たという一大事だ。
夜着からいつもの衣装へと着替え、美恋同様布団を畳む。それを押し入れに片付ける。勿論、美恋の布団もだ。リビングへ向かうと、いい匂いがしてきた。どうやら美恋は、台所で朝飯を作っているらしい。朝から我が家に上手そうな匂いが漂うのは、久しぶりの事だ。
神楽がいた時は当番制にしていたが、最低限の料理しか出来ない俺達が作る飯は、いつも簡素なものばかりだった。やはり新八のように料理が出来る人間は、一家にひとりは必要だ。台所に行くと美恋が、せわしそうに動いていた。前合わせの白いエプロンと腰をしぼる紫色の帯が、何ともお嬢様感を強めている。俺を見るなり、笑顔を浮かべる美恋。

『おはようございます』

「おはよ。早いな。いったい、いつから起きてるんだ?お前」

『5時半です』

「もう少し寝てろ」

『ヨメたるもの、ご主人様より遅く起きては駄目だから』

「あっそ」

名家の娘だ。嫁教育もしっかり教わりながら、育ってきたのだろう。立派といえば立派だが、嫁いだ先の環境や状況に合わせる応用力も必要じゃないか?
俺は腕を組みつつ、困ったヤツだ、と言わんばかりに息をついた。美恋と一緒にテーブルまで料理を運び、二人で席につく。目の前には“これぞ朝ご飯”というメニューが並んでいた。
味噌汁は勿論、焼き魚に納豆、綺麗な形をした厚焼き卵、ちょっとしたサラダにリンゴとバナナのフルーツセットだ。神楽がいたら喜ぶに違いない。というか低収入の俺が、豪華な飯を食いながらやっていけるのか、急に心配になってきた。
いいや、余計な心配は無用だ、と自分に言い聞かせる。美恋は有能なヨメだ。そこんとこは、ちゃんと考えてるだろう。多分……。俺は余計な事を考えるのはやめ、目の前のご飯を食べる事にした。

「ん?」

『どうしたの?』

「粒あんがない」

これでは三杯はいける、銀時スペシャル小豆丼が作れない。

『納豆があるじゃない。同じ豆だし』

「あ"?俺はあんこが食べたいんだよっ!」

『朝から甘いものなんて、血糖値が上がりっぱなしです。私はヨメとして、ご主人様の健康管理をしてるの!』

「う……」

俺の為だと言われると、さすがに言い返せない。しかしこのままでは、銀さんのエネルギー源でもある小豆の消費量が激減してしまう。

「ヨメだったら、旦那の言うことを聞くべきじゃないのか?」

『ご主人様が間違った考え方をした時正すのが、ヨメの役割だから』

「間違ったって……」

これ以上何を言っても、平行線だと思った。もう直ぐ神楽達が出勤してくる。この話はまたにしよう。時間はたっぷりとあるのだ。少しずつ、銀さんのヨメたる者の心得を教授させてやる。
俺は仕方なくサラダに手を伸ばすが、周りにはドレッシングやマヨネーズなどといった調味料がない。再び美恋に視線を向ける。

「サラダにかけるものは?」

『はい』

塩を手渡された。いったい、どういう事だ?

「美恋さん、塩とは?」

『塩は身体にいいんです』

「せめてマヨネーズを……」

『却下します』

俺はムッとした表情で、美恋を見つめた。俺は自然派推進人間じゃないんだぞ。
夫婦になった途端、今のようにアレコレと言ってくるようになったが、美恋の趣味は家事全般。それをテキパキとこなす上に、俺の見えないところでも俺の為に何かと世話を焼いてくれている。それでいて、一切恩着せがましい態度は見せない。ヨメとして、徹底していた。
美恋のすべての行為が“俺の為”である以上、何をされても憎むほど腹はたたない。過去の縁で、結婚する事になった俺と美恋。そこに秘められた彼女の真意はとても重く、一途だ。

「やっぱ、美恋の料理はうめーわ」

俺は困り果てながらも、甲斐甲斐しい彼女を愛おしい気持ちで眺めずにいられなかった。

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