君が傍にいてくれるから

珍しく二人共、美恋の話を黙って聞いていた。あの神楽が一言も言葉を割かなかった事が、何より信じられない。
やれば出来るんじゃねぇか。何故銀さんの時は、可愛げのないドS少女に変身するのか。いつもこうだと可愛いのに……何て事は、絶対に言ってやるか!

「事情はわかりました」

「こんな男の嫁になるなんて、美恋って変わり者アルな」

「どういう意味だ?神楽ちゃん」

「そのままの意味アル。男は包容力と経済力だと、マミィが言ってたネ。銀ちゃんは、どちらも持ってないアルからな。銀ちゃんと一緒にいても、不幸になるだけアル。美恋って好き者ネ」

「おいおい、神楽ちゃん。そりゃないんじゃないの!今まで面倒を見てきた銀ちゃんに向かって、めちゃくちゃ失礼だろ」

「勘違いすんなヨ。面倒見させてやったんだヨ!とりあえず今日から新八の家が、私の家アルな」

「ハァァッ?!」

神楽の提案に、大声をあげる新八。同時に俺と美恋も、目を丸くする。

「何でそうなるんだよ!」

「新八ぃ、お前もう少し気を使えるようになれヨ。二人は新婚さんアル。私がいたら、ラブラブいちゃいちゃ出来ないネ」

「そ、そうかもしれませんけど」

「子作りの邪魔は出来ないアル」

「「『……っ』」」

神楽の言葉を聞いて、言葉を無くす三人。まったく近頃のガキは、恥をしらないというか何つぅーか。ガキのくせに、余計な気を使いやがって。
銀さんは神楽込みの三人で暮らすつもりだったのだが、神楽は出て行くと言って頑として首を縦に振らなかった。
まぁ、お妙や新八がいるなら安心だろう。あの二人なら、神楽を悪いようには扱わないはず。ちゃんと面倒を見てくれるだろう。別に、未来永劫の別れというわけじゃない。
俺達が会いに行けばいい。それに、万事屋(ここ)は神楽や新八の職場なのだから、休日以外は毎日訪れるはずだ。寂しくなどない。むしろ寂しく思っているのは、神楽の方かもしれない。結婚などして、先に手を離したの俺の方なのだから。
こうして新八は荷物をまとめた神楽を連れて、万事屋を出て行った。飯も食わずに。
神楽という賑やかな住人を失った家は、今まで味わったことのない静けさを味わっていた。

『静かね』

「まぁな。俺はせいせいするわ」

『嘘ばっかり』

無理に笑ってみたが、やはり美恋にはお見通しのようだ。手がかかる人間程存在感があるのだと今、それを思い知った。

『やっぱり、私が通い妻とか……』

「そういうのは、あらゆる誤解の元だからやめてくださいっ」

『でも……』

「ま、明日の朝にはやって来るだろうから、また賑やかになるさ。それよりせっかく、アイツらが気を利かせてくれたんだ。有り難く受けようじゃねぇか」

甘い新婚生活など俺の柄じゃないが、美恋と一緒ならそんな人生も悪くない。
美恋に『お風呂にするか』『ご飯にするか』聞かれて、とりあえずご飯と応えた。あまりに新婚に有りがちなベタな展開で、思わずぷっと吹いてしまった。

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