ぼくらの恋はきっと

声を荒げる僕を、柚羽は困惑しきった顔で見つめている。当然だ。それだけの事をしたからね。どうしても柚羽を、他の男に渡したくなかった。ましてや、身近な男なんて有り得ない。
何故、柚羽なんだろう。可愛いだけの女なら沢山いるのに。試合に勝ち始めてから、ファンもできた。告られることだってある。なのに、気づけば柚羽を想っている。菅原さんに持ってかれるんじゃないかっていう、危機感からなんかじゃない。
その時、はっきりと気づいた。認めたくないけど自分に嫌気がさすほど僕は、柚羽に囚われているのだ。

「謝るつもりはないから。でも、僕は……」

きゅっと唇を結び、真摯な顔で柚羽を見つめた。

「告ったのは冗談じゃないから」

『蛍くん……』

「本気で好きだって言ってんの」

『蛍くん、私……』

「自分でもムカつくくらい、好きなんだけど。…………ごめん」

僕は天の邪鬼だ。素直になれなくて、色々と順番を間違えてしまった。柚羽に嫌な思いをさせちゃったけど、この想いだけは本気だ。
明らかに戸惑った顔を向けてくる柚羽とひとしきり視線を絡め、ひとつ息を吐き出してから僕は胸の内を吐露する。

「突然言われても信じられないだろうけどさ、気づいたら柚羽のことを、マジで好きになっちゃったんだから仕方ないでしょ」

『……っ』

そうは言われても、あまりにも突然過ぎてまだ躊躇いがあり、柚羽は視線を逸らしてしまう。そんな彼女の両腕を、力強く掴んだ。

「柚羽が好きだ」

きつく抱きしめた。柚羽は僕を押し返そうとするが、一歩も引かない。引くわけにはいかない。

『待って、蛍くんっ!』

「柚羽が好き。本気だから、あんたに伝わるまで何度だって言ってやる」

彼女を、真っ直ぐに見つめて言い放った。迷いなんてない。潔く自身の想いをぶつけた。

『蛍く、ん……』

自分の想いを真っ直ぐに告げる彼を前に、柚羽は自分の心と向かい合う。彼と過ごしてきた日々を思い出していた。
楽しいというより、からかわれていることの方が多かった。意地悪をされることの方が多かった。今だって大事な手紙を隠され、返してくれない。でも、彼を嫌いになれなかった。不器用な彼なりに、最後は優しかったから。
優しい菅原先輩に惹かれた。気持ちは嘘じゃない。それなのに、今彼から好きだと言われて、嬉しい気持ちが湧いてくるのは何故なのか。

『蛍くんの気持ちはわかった。でも突然過ぎて、自分の気持ちに整理がつかないというか、よくわからないんだ。だってさっきまで、菅原先輩の事が好きって言ってて。直ぐに他の人って……』

「………」

ふられんじゃん。菅原さんを選ぶんでしょ、そう思った。当たり前か。何を期待してんだか。僕らしくない。
そう覚悟した僕の耳に飛び込んできた言葉は、全然違ってた。

『でも、蛍くんに好きだと言われて、嬉しいと思う自分もいるんだ』

「え……」

『いきなりすぎで正直わからなくて、少しずつなら……』

真っ赤になってそういう柚羽。嬉しすぎるでしょ。

「じゃあさ、(仮)って事で許してあげる」

『えっ!?』

「とりあえずこの手紙は、僕が預かっておくから」

柚羽の手紙をひらひらさせる。返してやる気なんてさらさらない。柚羽の中で僅かでも僕への気持ちがあるとわかった今、僕以外の男に譲る気なんて微塵もない。
無駄な努力は嫌いだけど、僕への“好き"を大きくする為、慣れない努力ってやつをしてみようか。

『返して、蛍くん!』

「ヤダ。柚羽が僕だけを好きになったら、考えてあげよっか」

『蛍くんっ!』

柚羽の手紙をポケットに突っ込み、彼女の手を強引に引っ張って教室へと向かった。
この先僕と柚羽に、どんな未来が待っているのかわからない。けど、やっと気づいた想いはもう、揺らぐことはないという強い自信のようなものがあった。
お互い少しずつ、想いを深めていけばい。楽しみは先にとっておこう。

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