素直じゃないのは知っている
ピリピリとした険悪な空気が、辺りを包み込んでいる。とはいっても、振り撒いてるのは僕だけどね。
柚羽も菅原さんも、僕があまりにも不機嫌オーラをまとってるものだから、困惑しているようだった。手紙を渡す相手が、菅原さんと決まったわけじゃない。決まったわけじゃないけど、菅原さんじゃないとも決まったわけじゃない。
さっきは、凄く仲良そうに見えた。菅原さんは誰にでも優しくて、気遣いも出来るから、後輩からも慕われている。僕とは正反対のタイプでしょ。誰からも好かれる柚羽も、似たようなタイプ。並んでみると、凄くお似合いな気がした。僕なんかよりも、ずっと。
だからだろう。余計に苛立つのは。沈黙が続いた後、昼休みの終わりを知らせるチャイムが聞こえてきた。
「行くよ」
怒りを含んだ声色で、一言言い放つ。そして、柚羽の左手首を掴んで、強引に引っ張った。
『痛いよ、蛍くんっ』
「大袈裟に言わないでくれる。僕が誤解されるでしょ」
「月島!ちょっと乱暴じゃないか」
菅原さんが僕と、柚羽の間に割り込んできた。そういうことされると、余計にムカつく。ますます、二人の仲を疑ってしまいそうだった。
「お優しいですね。でも、菅原さんには関係ないです。僕と柚羽の問題なんで、放っておいてくれませんか」
『蛍くん、先輩に対してそんな言い方って』
「良いんだ」
ひねくれたように言う僕を、叱咤する柚羽。そんな柚羽に、優しい言葉を返す菅原さん。まるで、僕が悪者みたいじゃん。あ、悪者か。クスクスと笑う。
「月島、落ち着いて話してやれ。これじゃあ柚羽だって、怖くて話が出来ないだろ」
『菅原先輩、私は大丈夫ですから』
「でも……そうだな。ごめん。大きな声を出して。月島も悪かったな」
「いえ、別に。それより、早く行かないとまずいんじゃないですか?」
そう言うと、菅原さんは慌てて教室へと戻って行った。その後を追うように、僕達も教室に向かった。柚羽の腕は掴んだまま。
今の態度は、流石に失礼だったかも。僕が悪いわけじゃない。悪いのは僕を苛立たせる柚羽だ。まぁ菅原さんには、後で謝っておけばいいでしょ。
『ねぇ今日は、ほんと変だよ。どうしちゃったの?』
僕に腕を引かれながら、心配気な声で話しかけてくる柚羽。どうして僕がこんなにもイラついているのか、ちっともわかってないんだ。ムカつく。
「うるさい」
『蛍くんっ!』
僕は、足を止め俯く。
嫌な気分だ。僕の中でモヤモヤしたものが、どんどん大きくなっていく。苦しい。苦しい。許さない。
“僕以外の男のものになるなんて、許せない”
今、気づいた。そうだ……僕は、柚羽のことが好きだったんだ。ずっと、ずっと前から君の事が。
「…あのさ、柚羽って好きなヤツがいるんだよね?」
背を向けたまま話す。
『えっ?』
「それってさ、菅原さん?それとも、僕の知ってる誰かなのかなぁ?やめときなよ。柚羽には似合わないって」
なんて、意地悪な言い方をしてみる。柚羽は今にも泣きそうだ。胸の奥がズキリと痛む。
柚羽を傷つけたいわけじない。泣かせたいわけじゃない。ズキズキする。後悔するぐらいなら、言わなければいいのに。
だけど自分の気持ちに気づいてしまった以上、もう……引くつもりはないよ。