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「折原、臨也、さん…か」
正臣に近づくなと言われたけれど、非日常を求めて池袋に来た僕にとって、その言葉は牽制ではなく好奇心を煽るものにしか成り得なかった。
人間、誰しも、知ってはいけない見てはいけないと言われれば言われるほど、興味をそそられるものだから。
それは、僕にしても同じこと。
むしろその特性を色濃く受け継いでいるせいか、折原臨也、彼のことに関心をもった。
新宿の情報屋。
最強と敵対する最凶。
ぞくり、と背筋を震わしたのは、怖かったからではない、恐怖への悪寒でもない。
それは、期待。
待ち望んでいたものが、すぐ手の届く所にあるという、憧れ。
「ふふ、やっぱり来て正解だったなぁ…」
彼が僕のことを探っていることなんか当に知っている。知っていて、介入しない。
これは、罠…いや、賭、と云うべきなのだろう。
もっともっと、知って、関心を持って、そして、
「僕が堕としてあげますから、ね」
情報屋は2人もいらない。
ならば優秀な方が、劣等している方を蹴落とせばいいだけのこと。
ならば、この勝負、
「受けて立とうじゃあありませんか、臨也さん?」
知らない内に鳴ったファンファーレ。
気づいているのか、気づいた上で知らないふりをしているのか、どちらでも構わないけれど。
「負ける気は更々ないですから」
お互いの尻尾の掴み合い。
先に襤褸を出すのがどちらなのか、
「…見ものですね…」
このボロアパートにカツカツと鳴り響くのは、この場所に似合わない彼の高級さ溢れた皮靴の音。
逃げずに、待っているから、
( そして、宣戦布告をこの部屋で )