03
「ねぇ、静雄。」
「あぁ、分かってる。臨也のことだろ」
臨也を偶然通りがかった門田に押し付けた後、(門田には悪いが臨也がなついてるんだから仕方ねぇことだと思う)無言で新羅と目を合わせ人通りの少ない校舎の裏へと移動する。
二、三秒の沈黙の後新羅が重い口を開く。いつになく真剣な表情を浮かべながら。少し抑えた声で俺の名前を呼んだ。
朝起きた時の臨也の様子が少しおかしかった。何かを考え込むような様子で、でもどう言葉を掛けていいかわからなくて。
とりあえず手元にあった枕を投げつけてあいつの注意を引いた。
それでしばらく忘れていたらよかったものの、頭の良いあいつがそんなすぐに忘れるはずもなく、ここへの道の途中で尋ねられた。
尋ねられたところで俺には何の答えようもなかったから新羅の登場に心から安堵した。
「........絶対に思い出させるわけにはいかないからね。」
「あぁ。俺だってあんなあいつ見たくねぇよ。さすがに、な。」
「間違いなくあの過去は臨也の精神を蝕むよ。......壊れる、って断言できる。壊れたら......。多分もう元には戻らないよ。」
俺は折原臨也が嫌いだ。煩くて、論理的で、何よりも性格が歪み過ぎてる。
でも、数ヶ月前のあの事件の直後のあいつは......。正直二度とごめんだ。
俺が敵と認識する折原臨也は、あくまで何事にも屈せず嫌な笑みを浮かべている奴なのだから。
「そういや、臨也、君のところの下宿の子に恋したんだってね。」
「......知ってたのかよ。」
「あぁ、結構前からね。........応援してやってよ。」
「........っ」
グサリと、その言葉が心に突き刺さる。臨也が帝人に想いを寄せているのは事実だ。
だが、俺もあいつが好きだ。臨也に宣言することはできなかったが、俺だって帝人が好きだ。
今後の臨也のためにも、臨也が心から信頼できる人を増やすべきだとは思う。前にも言ったように相手が帝人でさえなければ俺だって協力していたかもしれない。
でも、到底俺は臨也の恋を応援することはできねぇ。俺は、......
「.......俺、は.......。」
急に喉が乾燥して吐き出された声は掠れ、かすかに震えた。そんな俺の様子を見ていた新羅は、ため息をひとつついたあと冗談だよと笑った。
「.....は?」
「いや、だから冗談だってば。君に臨也の恋を応援することなんでできっこないだろう?」
「.....どういう意味だ。」
「答えなら一つしかないだろう。君が竜ヶ峰少年に恋しているからだよ。否、君も、と表現した方が妥当かな。」
驚きのあまり硬直する俺に新羅はさらに驚くべきことを話し出す。
心底楽しそうな笑みを浮かべて、少し冷たい声で。
「......臨也はわかってるよ。君も彼に想いを寄せていること。」
「........。」
「臨也はわかってて君に打ち明けたんだよ。君がどうくるか待ち構えながらね。」
ぽん、と新羅の手が俺の肩に触れる。軽く置かれたその手が重く感じるのは、俺の心があまりにも混乱しているからか、新羅から発せられる冷たく重々しい空気のせいなのか。
そして新羅は再び口を開く。まるで俺の言い訳じみた反論など聞きたくないとでも言うかのように。
「.....俺前に言ったよね。....臨也を傷つけることと裏切ることは許さないって。君の嘘で臨也は傷つくんじゃないかなぁ。」
「黙れ。」
「だったら真正面から戦いなよ。君は臨也の生きる世界で唯一臨也の敵として存在しているのだから。」
じゃぁまたね。と一言言い残し新羅は俺の前を通り去った。
行き場のないこぶしが校舎の壁へとぶつけられる。みしみしと嫌な音をたてひびが入る壁。
じわり、じわりと何かが俺の体を蝕んだ。
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ドタチンの登場シーン書きたかったけど、カットです←
なんか....駄目でした。はい。
新羅は臨也の保護者的存在で地味に矢印が向いてたり向いてなかったり....