02



「.......朝、.....?」


窓から差し込む光で目が覚めた。小さな欠伸を一つ吐き出して、布団からするりとぬけだした。ふと隣を見て見るとシズちゃんはまだ眠っていた。
鞄の中に今日必要なものを全て詰め込んで、服を着替える。全ての用意を終えて、窓を開けた。


まだ朝も早いというのに、忙しなく行き交う人々。東京、という街は眠ることなく活動し続ける。
一度立ち止まってしまったら、二度と追いつけない。この街で立ち止まることは全てに見捨てられることに値するのかもしれない。


わかっている、そんなことはわかっている。
いろんな覚悟の上で俺はここに居る。勉学を極めて、将来進みたいと思う道だって自分の中に確かにあった。

でも、今。俺の目指す道にはあまりにも障害が多すぎる。
人に、恋をした。生まれて初めての感情だった。まっすぐで優しい年下の少年。彼は俺にないものを持っていると思うんだよね。
捨てようにも、もう捨てられない。だからシズちゃんに吐露した。シズちゃんが帝人くんに惹かれているのを知ってながら。


相変わらず俺は、卑怯で最低な男だとわかっていながらも笑みが浮かぶ。


しばらくして、扉が静かに開けられた。

「あ、臨也さんおはようございます。早いですね。」

「おはよう、帝人くん。目が覚めちゃって、ね。」

「あ-....もしかして寒かったですか?」


どこまでも優しい少年に首を振った。すると、彼はよかったと笑ってシズちゃんを起こしにかかった。
ほほえましい光景に、俺はいつから彼にこんな感情を抱くようになったのだろうかとふと思って、........


「......あれ....」


一つの疑問に辿りつく。最初に帝人くんにあったのはいつのことだっただろうか。
それ以前に俺はどういう経緯で、どの時期にここに来たのだろうか。
どれだけ探しても、答えが見つからない。


どうして、という疑問はすぐにかき消されることとなる。
何故って?......決まってるじゃないか、シズちゃんが俺に枕を思いっきり投げつけたからだ。
加減は....されてるのは、されているとは思うけど、さぁ......



「何だい、俺何にもしてないんだけど?」

「まだ、な。手前がむかつく面してんのが悪ぃんだろ。」

「はぁ?君って本当意味わかんないよね。あぁ、もう....鼻痛い」

「仲いいですね、二人とも」


そして今日も、朝は過ぎて行った。







「ねぇ、シズちゃん」

「.....お前は一秒も静かにできねぇのかよ。」

「うん、できない、から聞いて。ねぇ、俺ってなんで帝人くんのとこの下宿に住むようになったんだっけ?」

「...........」

「シズちゃん?」


シズちゃんの眉間に深いしわが寄る。でも、怒っている風でもない。どちらかというと、悲しそうな顔をしている。
お前、とシズちゃんが少し掠れた声で呟く。二度、三度と口を開閉するも言葉は繋げられなかった。

不思議に思ってシズちゃんの顔を覗き込む__いや、訂正。覗き込もうとした。



「おはよう、臨也、静雄君。朝から喧嘩とか止めてくれないか。」

「あ、新羅。喧嘩じゃないんだけど.....」

「おう」



首の後ろの布をぐいと掴まれて、気がつけば新羅の腕の中におさまるような形になっていた。
新羅の手がごく自然な流れで俺の額に触れる。うん、今日も熱はないねとそいつは口元を緩めた。


「......いつも思ってたんだけどさ、俺別に体弱いわけじゃないんだからそういうのいらないんじゃ...」

「.....ま、いいじゃないか。静雄君も解剖したいけど君も解剖してみたいからねぇ。ただそれだけだよ。」

「悪趣味。」

「君には言われたくないね」


いつもの日常、いつもの光景。いつも通りの会話。
三人で横に並んで再び歩き始めた。


いつものようにくだらないことを言って、シズちゃんが怒って、俺がからかって。新羅が呆れ顔で盛大なため息を吐く。




ただ、いつもと違うのは........。





俺の心に出現した、黒くもやもやした......できれば知りたくない、でも知りたい。そんな、何か。


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2話にして早くも脱線←

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