01


「ねぇ、シズちゃん。」

「....何だ?」


静まり返っていた部屋に突然音が反響する。俺は呼んでいた本から目線を上げ冷たい風をうけ、漆黒の髪を揺らす人物に目を向けた。
俺ね、と臨也は笑った。それはそれはとても悲しそうに、嬉しそうに。泣きそうに眉を寄せて甘い甘い声を出した。矛盾したさまざまな感情を抱えた臨也の赤い目が俺を捕える。
肌寒い季節だというのに、俺の部屋の隣の部屋の住人(といっても広い部屋のど真ん中に仕切るものがあるだけだが)は窓を開け放し窓枠に腰掛け上半身を外に出すようにして空を見ていた。
窓から部屋へと冷たい空気が流れ込んだ。


「帝人くんが好きなんだ。」


それだけ呟くと再び臨也は外を眺めはじめた。表情は見えない。ただ白い指が震えていることは確かだった。おかしいでしょ、俺が誰かを愛すなんてと言って臨也は自嘲気味に笑うが俺は臨也とはまた別の意味でかすかに体が震える。
臨也が口にした帝人こと竜ヶ峰帝人は俺と臨也が下宿しているところの一人息子だ。俺より確か2、3歳年下だったような気がする。
嗚呼、臨也が帝人が好きだなんて、と心の中で盛大なため息をついた。別の奴なら心の底から応援してやったかもしれない。こいつは確かに嫌なやつだが......否、嫌で最低な奴だ。良いところは特にない。
それでもまぁ助言や応援ぐらいはできただろうとは思う。
もしや、と思い疑ったことがなかった訳じゃない。できるのなら認めたくなかった。何故、何が為に同級生二人が同じ人物に恋をしなくてはならないんだ。


「どう思う?シズちゃん」


それが出来ない理由はただ一つ。感のいい臨也のことだから気づいているかもしれねぇが、俺から何かを言うことはない。むしろ言えねぇ。
俺は、帝人が好きだ。優しく、まっすぐな帝人。俺のこのバケモノのような力を目にしても依然と変わらず接してくれる数少ない存在。

勿論、黙って臨也に帝人を持っていかれるのを指をくわえて見ているつもりなんてない。が、ここで臨也に宣戦布告し臨也と張り合う自身もない。
この自分の意志では未だ操ることのできない力があいつを傷つけてしまうのではないかと、いつも思っては俺は逃げている。


「はは、今夜は新月だね。星が綺麗だよ。」

「臨也、いい加減窓閉めやがれ。また風邪ひくぞ」

「それもいいかもね。」

「.....新羅に小言を言われるのは俺なんだ。」


へらへら笑う臨也の腕を掴み、その体を完全に部屋の中に戻し窓をぴしゃりと閉める。それと同時に俺の心の奥深くの扉も硬く閉ざす。
俺は臨也に自分の帝人への気持ちを吐露することはできないのだ。これ以上自分が不利な立場になどなりたくなくて強制的に話を折る。

片足を布団の中へとつっこみ、不意に臨也が真剣な声色で呟いた。


「恋だの、愛だの......そんなの俺らしくないよね。」

「...そうだな、手前らしくねぇぞ。寝言は寝て言え。」

「そうするよ、おやすみ。君ももう寝たら?」


臨也の言葉に、適当な言葉を返し俺はそいつに背を向けた。
読みかけの書物を床から拾い上げ、再び読み始める。小さな寝息をたてる臨也を尻目に俺は一人考えにふけた。
そして諦めるべきなのか、真っ向から勝負するべきなのか。答えなどでないと分かっているのになんども自問自答を繰り返す。


どさり、と大の字に寝転んで静かに目を閉じる。
かすかに聞こえる笑い声を耳にしながら、俺は再び思い、悩む。


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シリアスが書きたくなった!(^^)!

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