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愛とは、__
お金で買えないものであり、値段をつけることができないもの。
帝人くんのその答えを、俺は机に肘をたてて眺めた。

非売品、ね……。確かにそうなのかもしれない。決して手の届かない何か。でも、それでも


「手に入らないとわかっているからこそ手に入れたい、欲しい。そう思うのが人間の性だと思わないかい?」


内緒モードで打ち込んだ文字を声に出して読んでみた。

人は、何かを欲する。そして楽をして手に入れても、苦労して手に入れても結局すぐに飽きて、興味を失っていく。自分の手にあるものと相手の手にあるものが例え同じものであったとしても、なぜか相手の手の内にあるものの方が魅力的に感じられて、それを欲し出す。なんとも愚かな生き物だよ。

愛とは、ワタシ、そう君が答えるのならば、俺は君に問う。本当にアイなんてものがこの世に存在すると思う?

残念ながら俺の答えは、NOだ。愛だとかいう感情なんてきっと地球上どこを探しても存在しやしない。

人間が生きているこの地球に愛なんてものが存在するとしたら、この世はおそらく穏やかなものだよ。

人間は、形あるものを信じる。例えば、誰かと重要な契約をするときとかね。

口約束なんてそんな薄っぺらいものでは互いは結びあわない。契約書だの印鑑だの、自分の懐に確かな証拠があって初めて人と人との関係は成り立つ。これが、現実だ。

それに、


「自分が愛と思う感情と、人が愛だと思う感情は必ずしも等しいわけではないだろう?」


人が心の奥底で抱く気持ち。それには形が無いから目に見えないし、触れることなんてとてもじゃない。

愛とはこの感情を示す、なんていう定義もないのだから、所詮こんな抽象的な感情など人の価値観にしか過ぎないんだよ。


ふと、我に返った。

自分らしくない、なんでこんなに俺はむきになっているのだろうか…。

いつもなら、例え相手の意見と自分の意見が違っても流せるはずなのに。


「何を熱くなっているんだろうね、本当に…。」


愛だの、なんだの。もうどうでもいいじゃないか。俺の人への感情が愛でいいじゃないか。

深く考える意味なんてない。


>甘楽
すみませ〜ん ちょっと用事ができたのでおちますね

それではまた〜!


ろくに画面も見ないで、素早く打ちこんで。そのまま電源をきった。

少し、ざわつく心に気づかな
いふりをして、近くにあったコートを掴み月が高く上る外へと一歩踏み出した。






「…ら……、…おり…さん」

「……。」

「….ん、折原さん」

「…っあぁ、すみません」


少し大きめの声で名前を呼ばれ、肩を揺らした自分の体に心の中で盛大に舌打ちをした。

今は、仕事中だ。関係のないことを考えている場合じゃないんだ。

俺は、情報家の折原臨也。なのだから。

一度、大きく深呼吸をした。

そして、


「……取引成立、ですね。」


いつも通りの、笑みを唇に。



取引き場所として指定されたその場所は、地下の奥深い所で。

再び外へと出て見ると、太陽の光が目に染みた。備え付けの時計を見てみるとすっかり朝だ。

とりあえず、新宿に帰ろう。

一つ大きな欠伸をして、なるべく人通りの少ない道を選んだ。

俺が歩く建物の裏の道から少し見える、大通りは制服を着た学生で溢れている。

そういえば、俺にもそんな時期があったな、と少し昔を懐かしんでいると、どこかで聞いたことのある声が、聞こえた。


「みかど〜!」


「あ、正臣!おはよう!」


制服姿の帝人くんの姿が視界に入った瞬間、俺は無意識のうちに早足で歩きだしていた。


(愛、とは何か…..。それは俺にとって永遠に解くことができない問題なのかもしれない。)



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