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唐突に与えられた初めての感触。
温かくて、柔らかかったそれ。
一体、何が起こった?
呆然とした僕に、おやすみ、と告げて去る臨也さんに気を止めることもなく、唖然としたまま立ち竦んだ。
そして漸く理解して、真っ赤になって同じく朱に染まった頬を抑えてしゃがみこんだ。
「なに、いま、の…」
訳がわからない。
臨也さんにキスをされたという事実だけは把握したものの、その動機やプロセスは全く理解不能で、僕の思考回路は考えることをシャットアウトしてしまった。
何故、臨也さんが僕にキスなんてものをする必要がある?
きっと、また、彼の訳のわからない冗談に付き合わされただけなのだろうと勝手に解釈する。
しかしそれでも、わからないことがあった。
『俺が欲しいのは帝人くん』
そう言ってのけたのは紛れもない臨也さん自身だ。そして、それからのキス。
『興味があるのは帝人くん自身なんだけどね』
『ダラーズより欲しいものがある』
頭の隅でフラッシュバックする臨也さんの声をよく思い出してみれば、所々にヒントと思わしきものが散らばっていることに気づいた。
パズルのピースを嵌めていくように、その言葉の、動作の意味を考えて、そして繋げていけば、1つのわけにたどり着いた。
自分自身、そんなことは万に一つ…いや、億に一つにも有り得ないことなのだけれど、全ての臨也さんの行為を唯一正当化させる理由がそこにはあった。
臨也さんが、僕に特別な…言うなれば、下心のあるこれは、
恋愛感情。
それを、彼が抱いているのではないかということ。
「冗談、きついよね…うん、有り得ない!」
正直、僕は男より女の子が好きだし、ましてや臨也さんにそんな好意を向けられたって嬉しくもなんともない。
ただ、
「もしそうなら、利用、できるかな、これは」
臨也さんが恋愛事に現を抜かしている合間にその居場所を横どりすればいい、なんて卑怯なことを考えてしまう辺り、彼の扱いに慣れてきたなぁと溜め息をつく。
臨也さんとは、いつもこうだ。
利用して、利用されて。
欺いて、騙し合って。
そうやって上手く対応してきたし、これからもそれを貫き通すはずだったのに。
男、として、意識させられるなんて。
数分前に、臨也さんの唇が触れていた頬にまだ少しその感触が残っている気がして、思い出すように撫でた。
「本当
に、からかうのは止めてくださいよ…臨也さん」
その行為が、ちっとも気持ち悪くなかったなんて、そんなのは自分の勘違いだと首を振って否定した。
それでも、やっぱりその疑念が忘れられなくて思い悩む。
もし臨也さんが。
もしも、もしも、
本気じゃなくて遊びなら、今すぐに止めて欲しかった。
もし本気だとしたら、それは
( 子供だから、些細な事で本気になってしまうでしょう? )