「......馬鹿みたい。」

「...あ゛?」

「人前で手とか繋いじゃってさ、恥ずかしくないのかな。」

「....ああいうのはそんなもんだろ。」

「......」


寒い寒い冬の夜。仕事帰りのシズちゃんに拾ってもらって、そのまま池袋を歩く。
吐いた息が白い。
手袋をしているはずなのに冷えた指先を少し鬱陶しく思いながら息を吹きかける。
ちらり、と隣を歩くシズちゃんの様子を窺ってみたが少しも寒そうじゃなくてこういうところも人並み外れなのかと心の中で驚嘆する。


シズちゃんの家の近くの公園の前を通りかかったとき、だった。
キィキィという音に惹かれて見てみると。高校生くらいの男女が仲良く二つ並んだブランコに腰掛けて、意味もないのに手を繋いでいた。


そのあとの会話が冒頭のもの、ってわけ。


シズちゃんは俺と公園のカップルを交互に見て、少し笑って俺の頭に手をのせた。
季節は冬、なのにシズちゃんの掌は驚くほど暖かくて、


(...生きてるんだ、シズちゃん。)


と、当たり前のことを実感させられた。無意識のうちに暖かい手を手に取っていた。
俺よりも少し大きくて、しっかりした手。
大きさを比べるかのように掌をあわせていると、空気が震えた。
驚いて顔をあげると、シズちゃんが小さく声をあげて肩を震わしていた。


「何笑ってんの?」

「なぁ、臨也。手、貸してくれよ。」

「....?」

「どうせ俺の家はそこなんだからよ、手繋いで帰ったっていいだろ?」

「....っ!ば、かじゃない....の」

「俺が馬鹿なのはお前も良く知ってるだろ?」

「....今日、だけだから....」



一度シズちゃんの手から手を離して、恐る恐る差し出す。
そんな俺の様子にシズちゃんはまた笑う。笑って、少し強引に俺の手を取って___





「思ったより遅くなったな。」

「.......」

「顔、あけーぞ。」

「っこ、れは寒かったから」

「さむいならさっさとあがれ。」


恥ずかしさと、戸惑いと嬉しさで頬があつい。そんな俺をシズちゃんは優しい目で見つめながら
部屋の中へと招き入れた。







  


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