「.....シズちゃん」

「....あぁ?」

「どうしたの?元気ないみたいだけど」



肩と頭で携帯をはさんで、仕事を片づけながらシズちゃんと話してた。シズちゃんは俺と違って、口数が多いわけではない。
俺はシズちゃんの声が好きだ。
低くて、優しくて穏やかな声が。キレて叫んでる時のシズちゃんも楽しいから好きだけれど、でもやっぱりこうしてゆったりとしているときのシズちゃんの声の方が好きだ。
俺はこういう仕事をしているから、正直なとこ嫌なことだってある。
悔しくて、腹立たしくて、無性に泣きたくて。
でも、電話ででもシズちゃんの声を聞くと心がすっと軽くなる。

いつもは落ち着くシズちゃんの声が、今日はどこか寂しそうに感じた。
話し方や声のトーンはいつもと変わらない。でも、どこかいつもと違うように感じられて….。
思わず不安になって尋ねてしまった。らしくないことは、わかってる、….。
でも尋ねずにはいられなかった。


「シズちゃん?」


どうしたの、ともう一度問いかけてみた。心が、痛い。無意識のうちに、ノートパソコンを閉じて携帯を手に持ち替えた。


「なぁ、臨也、俺の力ってそんなにこわいか?」

「ん、どうしたのいきなり…..?」

「…..おまえはどうなんだ?」


何時になくまじめな声。あぁ、そういうことかと心の中で呟いた。
取り立て先でなにかがあったのだろう、というかなにか言われたのだろう。
彼の驚異的な力のことを。

シズちゃんは、優しい。本当は誰よりも優しくて、誰よりも繊細で、だから傷つきやすい。
守りたいと思えば思うほど、傷つけてしまうのだとシズちゃんは昔言った。
俺の掌は何かを傷つけることしかできない、破壊することしかしらないのだと。


俺はシズちゃんの力が好きだ。シズちゃんは俺が関わってさえいなければ必要な時しか暴力を振るわない。
シズちゃんが仕事や俺がちょっかいをかけたとき意外に暴力を振るうとしたら
それはおそらく誰かを守るためだ。
彼はそういう人だからね。でもシズちゃんの力は時に圧倒的すぎる。
だから、誰かのためにその力を振るっても、その誰かに恐怖を感じさせてしまう。

助けてもらったのだから、お礼ぐらいいえばいいのに。
人は、そういうとこは醜い。


「…..その力も含めてシズちゃんでしょ?」

「……..」

「俺はシズちゃんが好きだよ。もし仮にシズちゃんが君の力を嫌っていたとしても、俺が愛してあげる。」

「……あぁ、」

「だから、大丈夫。まぁ出会いがしらに自動販売機投げられるのは嫌だけどね。」

「それは手前が池袋に来るのが悪い。」


電話越しにシズちゃんが、笑った。その声に無性に安心している自分がいて、
思わず首を振った。
ふと時計に目をやると、すでに夜も遅い。俺はいいけどシズちゃんは朝もはやい。
そろそろ切ろうか、というとシズちゃんはそうだなと言った。


「それじゃおやすみ。」

「あぁ、……なぁ臨也。」

「なに?」

「…..いや、その、ありがとな….」

「どういたしまして。」

「……じゃあ、」

「うん、おやすみ、シズちゃん。」


通話終了の画面。耳に残った、シズちゃんの笑い声。
電話をパソコンの横に置いて、目を閉じた。


(おやすみシズちゃん、良い夢を。)



耳に残った声とたまに見るシズちゃんの優しい顔がを思い浮かべながら
再び俺は、仕事を開始した。






  


back