「そんな不健康なものを食べて!成長期なんですからね!もっと栄養のある…」

以下略。
隣でガミガミと母親より母親らしい観月さんの話を右から左へ受け流して、大好きなあのコンビニのメロンパンにがぶりと噛みついた。観月さんとご飯を食べるのなら、ちゃんとお弁当にすればよかったと後悔。でも、今日お昼を一緒に食べることになったのは単なる偶然で、計画したものじゃないから仕方ない。









「顔が暗いですね。貴女が元気ないなんて何か天変地異でも起こるんじゃないですか?」

出会い頭にいきなりその言葉は酷いと思う。

でもどんな小さい変化でも気付くことの出来る観月さんは人を良く見ている。それぐらいじゃないとルドルフのテニスのマネージャーなんてやってらんないか。ホントスゴイ人だ。

話を聞いてあげますから一緒にお昼食べましょう、いいですね、といつも通り上から目線な先輩が私は大好きです。もう答えが決められている質問なんて、質問じゃない。Yes or はいですよね、知っています。









「それでどうされたんですか。」

そう今回の目的は一緒にご飯を食べることではなく、相談に乗ってもらうというものだった。

「いや最近裕太の様子がオカシイんですよ。」

「裕太くんがですか…?」




裕太とは1年の時から同じクラスで性別は違っても結構仲がいい方だと思う。裕太も私もサバサバしてるし、何より甘いモノが大好きで色んなカフェを巡って何処が美味しいかと探す甘味部なるものを結成している。もちろん二人だけなんだけど。

裕太のおかげでテニス部のみんなとも顔見知りになれて。あの有名な観月さんと話せる日が来るとは思ってもなかった。






その裕太が最近変なのだ。





朝挨拶しても「ああ、うん。」と言って逃げていくし、私と目が合うだけで何処かへ消えてしまう。
極めつけは放課後ケーキを食べに行こうと誘っても部活があるからとさっさと教室を出て行ってしまったことだ。ケーキよりも部活をすぐにとるなんてそれまでの裕太にはなかったことだ。それに観月さんから部活はないと聞いていた日だったからおかしすぎる。


まぁそんなこともあるのかなと思っていたら、それがずっと続いているから首をかしげたくもなる。

クラスのみんなも不思議に思ったのか私に喧嘩でもしたのと聞いてくるが私さえもよく分からないのだ。

裕太に何かあったのだろうか。






裕太によくアホアホ言われる私もいろいろ考えてみた。


まず私関連でいえば、カレカノかとからかわれたというのが挙げられる。
昔は仲がよいから付き合っているんじゃないかとからかわれたことはあったが、二人で笑い飛ばしていたから今ではそんなこという輩なんてもういない。私たちの友情はクラス公認と言っても過言じゃないと思う。


もし部活で何かあったのなら先輩たちや金田くんがこっそり教えてくれるはずだし。そういうときはケーキを奢ってあげて元気を出してもらうに限る。


裕太のお兄ちゃんに関して文句を言うことはあっても結局は大好きだから、ここまで態度が変わるということはないだろう。




つまり、私の残念な想像力を超えた範囲なのだ。
せいぜい1年ちょっとぐらいしか知らないけれど、ルドルフの中では結構長い時間一緒に過ごしてきたという自負がある。もちろん喧嘩をしたことも沢山ある。しかし今回はさっぱり分からない。私は彼に何かしてしまったのだろうか。







もしこのまま嫌われてしまったとしたら、私は悲しい。









近況と思っていたことを包み隠さず観月さんに話した。
拙い喋り方なのにじっと待ってくれて、一言も漏らさないようしっかり聞いてくれていた。

やっぱり人に話すって大事だね。思っていたことを言えて少しすっきりした。


「裕太くんも困った人ですね…。
仕方ありません。神谷さんの悩みを解消する手助けをいたしましょうか。」

「え!本当ですか!!!」

ずっと聞いていた観月さんが口を開いたかと思ったら、予測していなかったことを言うものだから目を見開いてしまった。いつも通り、んふっ、って鼻で笑われるだけかと。(私が観月さんをどう思っているのかバレるなこれ)

「本当ですよ。そんなに驚かれるなんて心外です。後輩が困っているのですから、力になるのが先輩でしょう。」

「みづきせんぱい…。」

先輩の優しさに涙が出てくる。心強い言葉だ。本当五月蝿い先輩なんて思ってすみませんでした。もう素敵です。尊敬します。

「…ということで、裕太くん説明してください。」



「え?」
「は?」



私の気の抜けた声と同時に別の声がした。後ろを振り返れば、さっきまで話題にしていたやつがいた。
裕太も観月さんの提案についていけてないらしく、目を点にしている。いや、その前になんでいる。

「……………。では、私は失礼します。」

彼は裕太に耳打ちしたかと思うと颯爽とこの場を離れていった。
ちょっと待ってください。本人に聞くなんて私のガラスのハートじゃ無理ですよ。

「「み、観月さん!!!」」

焦る私たちの呼び止める声さえも無視して部室棟の方へ消えていった。

そうして、なんとも微妙な空気と私と裕太だけが残された。














「そっち座っていいか。」

「う、うん。」

長い沈黙(と言ってもそう感じただけで1分も経っていないかもしれない)を破ったのは裕太の方だった。私に確認を取ると観月さんがさっきまでいたところにどすりと座った。

「観月さんに呼ばれて来たら、お前もいてビックリした。」

「え、観月さんに呼ばれてたの?」

「ああ。」

観月さんは最初っから私の悩みなんてお見通しだったという訳か…。これだからデータマンは嫌いなんだ。もう。

裕太に何聞けばいいかなんて考えてなかったから何も出てこないよ。ずっとまともに話してなかったから話し方さえも忘れてしまったようで。何を言えばいいんだ?





「悪かったな。」

「え?」

「最近態度変だっただろ。」

「あ、うん。」

やっぱり意識的に態度を変えていたんだ。ちょっとショック。でも謝ってくれたからよしとしよう。うん。許してあげる。だって大事な友達じゃないか!

そう思ったら悩んでいた気分も吹っ飛んだ。なんかうじうじしていたのが馬鹿みたいだ。そんなの私じゃないし。明るく元気なのが私!



「やっぱり何かあったの?」

私のことはともかくやっぱり親友として心配である方が大きい。出来ることなら助けてあげたい。

「いや、それは…。」

「私には言えない?」

それならそれで構わない。無理に聞く必要はない。
私は元気づけられればいいのだ。言いたくなるまで待とうではないか。






「あーもう!くっそ!!!観月さん!」

私の顔をじっと見ていたかと思えば顔を背けていきなり叫んだ。いや、観月さんって叫ぶ意味が分からないから。観月さんいないいない。そして叫ぶのは赤澤さんの特権ですよ。







「神谷、ごめん。」

「え、は?」

そしていきなり謝られる意味が分からない。
しかしさっきまでの困惑顔が何処かに消えて、テニスをやっている時並みに真剣な顔で言うものだから、何意味不明なこと言ってるんだと笑うことも叶わなかった。
裕太は何を謝ってるんだ。





「俺、神谷のことが好きだ。」





「………へ。」

混乱しているというのにさらに混乱させる気なのだろうか。
え。それはどういう。そういう意味ですか。え、え、え。



脳内ショートさせてたのが裕太にも伝わったらしい。



「お前変な顔。」

手に負えなくて困っている私の顔を見てケラケラと笑い出した。
裕太は言いたいこと言って満足したらしくスッキリした顔しているけれど、こっちはまだ処理出来てないのよ。ヒドイ。

「まぁそういう反応だと思ったから先に謝っておいた。」

さいですか。流石よく分かってらっしゃる。
誰がこの流れで告白されると思うのよ。(私以外は予想できたなんて言わないよね)


「お前に返事は求めてないから。…どうせそういう対象に見てないだろ。俺も最近までそうだったし。





絶対俺に惚れさせてみせるから、閏覚悟しとけ。」




私を指しながらニヤリと笑ってそんなこというものだから、妙にドキマギしても仕方ないと思う。顔がいいんだから、カッコイイこと言わないで欲しい。キラキラして見えたのはすでにフィルターがかかっているからだろうか。



もういっぱいいっぱいの私を残して彼は校舎に戻っていった。
私の顔は夕日よりも真っ赤に違いない。ホントどうしてくれるんだ。

















「うまくいっただーね。」

楽しそうに笑って柳沢さんは窓から外を見るのを辞め、食糧庫を漁りはじめた。
それを横目に観月さんは紅茶を優雅に啜っている。

「当たり前でしょう。自分の作ったシナリオ通りに事を進めることが出来る、私は最強ですよ?」

んふっと自分の思い通りになってご満悦らしい。観月の手にかかると大変だーねと漏らした。淳さんもクスクス笑っている。…これはいつもか。

「裕太も無自覚過ぎだけど、観月も酷いだーね。付き合ってないからって神谷さんを彼女にしていいかなんて聞くとは思わなかっただーね。」

ちょっと前の部活後の出来事だ。観月さんが応援に来ていた裕太のクラスメイトの神谷さんの話をいきなりし始めて、裕太に付き合ってるのか聞いてきた。もちろん予想通り付き合ってなんかないと仏頂面で返してきた彼に、「じゃあ私のモノにしましょうかね…んふっ。」と言った途端部室内はブリザード。裕太の顔は般若だった。人を殺しかねないくらい睨みつけていた。もちろん観月さんは何処吹く風という感じでこの状況を楽しんでいたけれど。(あと淳さんもか。)俺達まで巻き込まないで欲しいと思いつつも、それを口に出さなかった。……ノムタクさん以外は。

「あれぐらいしないと裕太くんは気付かないでしょうから。仕方ありません。」

ごもっともです。柳沢さんも木更津さんもうんうん頷いていた。
裕太を通して神谷さんはテニス部のメンバーと仲良くなったのだけど、神谷さんが他の男と話しているだけで眉間に皺が寄っていてイライラしてるのがすぐに分かった。にも関わらず自覚していないって…。いい加減じれったいと観月さんの癇に障ったらしくさっさとシナリオを書き上げたらしい。


ノムタクさんの失言と共に正気に戻った裕太は愕然としていた。ようやく理解したようだった。もしかしてノムタクさんの行動さえもシナリオだったのか…。


それからずっと神谷さんとのことで悩んでいたらしい。






「淳、何やってるだーね。」

淳さんがいじくっている携帯の画面を覗き込んだ。淳さんは隠す様子もなく柳沢さんに画面を見せた。

「twitter。『後輩に春が来たなう』って呟いておいた。」

どう考えてもお兄さんにまでRT回す気でしょうね。ご愁傷様。


クスクスと笑う声を聞きながら、カレーパンを買うだけなのになかなか帰ってこない赤澤部長を心配しつつペットボトルのお茶を飲み干した。





スポットライト
(早く学校公認カップルにならないかな…)




(2012/07/15 提出)






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