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ジャングルジムの天辺に立ったときの、景色。普段目にしている景色が遥か足下にあり、周囲では皆が不安そうに、だが憧れの色をもって己を見上げているのだ。膚をなでる砂っぽい風が、妙に心地よかった。天辺から見下ろす、普段見える景色が、なんだか味気なくて、天辺から見えるこの景色を何時までも眺めていたくなった。そして、何時からか天辺からの景色を見続けるには誰かに対して勝負を挑み、勝ち続けいれば良いのだと気付いた。勉強であれスポーツであれ、勝ち続けていれば、自分が一位という天辺の座に居続けることができるのだと。至極簡単なことではないか。まるで天下統一を目指していた群雄割拠の戦国時代、薩長と幕府が戦った江戸末期のようだ。勝つことが天辺への近道で正義なのだ。
だから、将来の夢は?と尋ねられると、天辺にいることと為るのだが、そも『夢』は睡眠中に見る幻覚体験をいうのだ。 夢の語源は『寝目』で、睡眠と見えるものが意味である。何時からか『ゆめ』に転じ、「将来の希望」といった意味で使われ始めたのは、近代以降になるのだ。言葉の意味さえ解らなければ『夢』がうってつけではあるが、進み行く足の形が変形し、心が目標を目指して進み行くことを表している『志』と言った方が自分の中にはストン、と落ちた。

そんなながったらしい話を聞かされていれば、幾ら飄々としていて掴み所が無い奴だと思っていても、応援したくなってしまう。私は、今吉の夢だとか志の内容に感動したのではない。一所懸命になれるものを持っている今吉に憧れたのだ。試合が云々、勝ち負けが云々よりも、目の前にあるものに全力であれば、私は天辺よりも凄いことだと思ったのだけれど。

「試合、負けたね」
「天辺、見せてやれんかった」
「風船みたいだった、いっぱいいっぱい空気溜め込んでさ、パァンって割れちゃったね」

頭を下げている今吉の顔は見えない。そのくせ、人の制服なんか引っ張っちゃって。

「……」
「わたし、風船の割れる音きらい。大きくて、でも、『俺は頑張ったんだ!』って言ってるみたいで、悪くないかなって思うよ」
「……」
「天辺には届かなかったけど、わたしには、天辺にいるよりもかっこよかったって思うよ」

ゆっくりと下げていた頭を今吉があげる。「慰めてんのか、あほう」なんて、何時もの飄々としたアンタはどこにいるの?「鼓舞してんのよ」って笑えば、お腹に腕が回った。

121010
title*風船みたいな結末
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