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全国ベスト8という悔しい結果に終わった夏が過ぎ、季節は巡って冬になろうとしている。進路が決まった人が次々に増えていく中、わたしは年末にある入試に向けて勉強の真っ只中だ。とはいえ、WCを控えたバスケ部のマネージャーとしての仕事も忙しい。3年生になった今でも部活と勉強の両立をしているのは誰に頼まれたでもなく、わたしがそれを望んだからだ。友達はほとんど冬までに引退していて、残っているのはラグビー部のマネージャーの子くらい。ただ、その子は早々に推薦で進路を決めたので、わたしの知る中でまだ進路が決まっていないまま部活をしているのはバスケ部を除けばわたしくらいである。この前の模試の成績もあまりよくなくて不安でいっぱいだけど、わたしはひとりじゃない。それを証明するかのように早朝の体育館にはボールをつく音が響いている。先客だ。


『おはよう、笠松くん』
「おっす、」


ボールをつく手が止まり、笠松くんと目が合う。が、それは一瞬で、笠松くんの視線はすぐにゴールに戻る。そしてまた華麗にスリーポイントシュートを決めるのだ。本当に何回見てもすごいなあと感嘆してしまう。

シュートを3本見たあと、あとからぞろぞろ来る部員たちのために外の冷たい水で濡らした雑巾をコートの四隅に置いた。これもみんながベストなプレーをするための大事な仕事だ。そろそろ誰か来るだろうと思っていたが、誰も来ない。今日はみんな遅いな。さっきの水仕事でかじかんだ手を擦っていると、ボールをつく音がだんだん近づいてくる。


「みょうじ、手」
『あ、テーピング?じゃあ取ってくるからちょっと』
「そうじゃなくて手、出せ」


言われるがままにあかぎれやしもやけでお世辞にも綺麗とはいえない手を出すと、暖かい手が重ねられた。今起こっていることが信じられなくて笠松くんを見ると、顔を真っ赤にした彼がそこにいた。そりゃそうだ、だって森山くんや黄瀬くんならまだしも笠松くんはそんなことをするようなタイプじゃない。だけどそれが嫌じゃなくてむしろ心地いい。今悩んでいることがぜんぶこの暖かい手にすーっと吸い取られていくような感じがする。


「いつも無理させて悪い」
『わたしが好きでやってることだよ』
「入試近いんだろ、小堀に聞いた」
『部活に来なくていいって言いたいの?』


途端に口篭る笠松くん。本当わかりやすいなあ。優しい彼のことだからわたしに気を遣ってくれてるんだ。だけどごめんね笠松くん、わたしはそんなこと考えてほしくないの。わたしも16人目の選手として最後の最後までみんなと一緒に戦いたい。夏にみんなが見せてくれた試合みたいに、わたしも逃げたくない。


『来なくていいって言われても来るからね』
「…ったく」


笠松くんは諦めてくれたようで、はぁと大きな溜め息を吐いた。笠松くんにわたしを説き伏せることなんてできないよ、だってわたしはきっと笠松くんがチームのことを大切に思うのと同じくらいみんなのことを大切に思ってるもの。


『もうすぐ冬だね』
「ああ」
『信じてるよ』
「ああ。次こそ見せてやる」


少し冷たくなった手を離して、彼はまたシュート練習を始めた。


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企画ntlr様に提出
素敵な企画ありがとうございました!
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