つぶやいた言葉は、そっと空気に消えていった。つないだ彼の手は秋独特の寒さで冷たい。もうすぐ冬に近づく。きゅっ、と強く握れば、彼もまた強く握り返した。
「…めずらしいな」
「なにが?」
花宮は私の手をもてあそびながら、その手を上へと上げていく。きゅ、指を、指と指の間にねじ込ませて、世間一般では恋人つなぎと呼ばれるつなぎ方をした。指の間がこそばくて、むずむずする。彼の顔の方向に目線を向けると、すこし恥ずかしそうな顔をした花宮と目があった。
もう一度なにが?と聞くが、べつに、とすこしむくれながらそっぽを向いてしまう。どうしたのだろう。顔をのぞき込もうとすると、また避けられた。
すこしだけ、寂しいなって感じる。珍しい、と言われたその言葉を、頭の中でなぞって見せた。その言葉は、ゆっくりと私の中を浸食していく。私が、手を握ったことが、珍しかったのかしら?…なんて。
白い息は私と花宮を包んでいく。秋の風が、冷たく突き刺さる。手だけが、じんわり暖まる。花宮の体温だけが、私を生かしているようだった。
伝わる体温に目を伏せる。
どくりどくりと脈が動いて、これが彼の体を動かしていると思うと、酷く嫉妬にかられてしまった。この、動く、音が、血が、何かが、私ではなく、花宮を生かす。
もう一度、ぎゅううっ、と手を握る。花宮は、どうしたんだよ、と今度は私をのぞき込むようにしたが、私はただひたすら、花宮の手を握ることしかできなかった。
「なぁ、おい?大丈夫か」
その言葉を合図に、私は息をした。は、うっ、と口元から吐き出した音は、白い息へと変わっていく。花宮は私の頬を量の手で優しく包み込み、暗示をかけるように声をかけた。その言葉となった空気も、白い。私と同じ白さがあった。
スルリ、解こうとした手を、今度は花宮が握った。暖かさがまた伝わる。その暖かさとか、血とか、筋肉とか、皮膚とか、骨とかの生きている様に、泣きそうになって。また、嫉妬してしまう。
花宮を動かすのは、私ではないのだ。私ではなく、この血肉なのだ。
「はなみや」
「…ほんとにどうしたんだよ」
「いっしょにいたい」
その血肉に、私も混ぜてもらいたいと、私はそのとき、本気で思った。
花宮を動かし、動揺させ、喜ばし、泣かせ、一緒でいる、その血に、肉に、骨にさえ、私はなりたいと思った。我ながら、気持ちが悪いことは承知だ。それでも、彼を構成しているそのものが、憎くて仕方なくなった。
花宮が珍しいと言ったのは、はなしてこの考えだったのか。それとも、私の存在そのものだったのか。いっしょにいたい、とつぶやいた言葉も、白い息となり、溶けて消えてしまう。花宮の息と、言葉は、どうにか落としてしまわないように、無くしてしまわないように、花宮の近くへと足を進める。
花宮のすべてになりたい。
そう言えば、ただただ泣きそうな花宮と、目があった気がした。
あなたのための心臓になれない企画「ntlr」提出. / 水瀬