log2 | ナノ
いつもは大きな目を三日月のように細めて笑う瞳が、今日は深く淀んでいた。長くて上向きな彼女の濡れた睫毛が風に揺れる。俺は、決して話し上手ではないし、増してや聞き上手でもない。でも彼女の隣は居心地がよくて、俺にとって彼女は唯一の女友達だった。彼女にとってもきっと俺という存在は同じだったのだろう。胸に秘める感情は違くとも。彼女は何かあるといつも俺のもとへやって来て、ひとりでずっと喋り続ける。俺は別段何かアドバイスをするというわけではない。ただ、隣で相槌を打つだけだ。会話と言えるのかわからないようなそんな奇妙な空間が俺には心地よかった。


「好きなのにね」


くしゃりと笑った顔。頬にはくっきりと涙の跡が残っていて大きな目は赤く腫れていた。俺には的確な言葉をかけることも、優しく抱きしめることもできない。ハンカチなんて洒落たものと持っていないし、その時首にかけていたタオルを隣で小さく啜り泣く彼女にぶん投げた。ありがと、と呟いて顔を隠すのが見えた。泣くなって、その目を見て伝えたい。俺はいつでもこうしてお前の隣にいてやるよって、そう伝えて気の済むまで俺のところで泣けばいいって、心の中で思ってる。なのに、隣すらまともに見れない臆病な俺。


「あ、りがとね。笠松」
「別に、いつものことだろ」
「いつもだね。何でも笠松はわたしの話聞いてくれて」
「…聞くだけだし、なんもしてねえよ」
「それだけで、いいの。ありがと。いつも、わたしばっかり」


笠松も、何かあったらわたしに話してくれてもいいんだよ。それとも、わたしには話せないのかな。そんなことを言うから。なんでそんなこと言うんだよ。俺の考えてること言ったらお前は、


「俺がお前のこと好きって言ったら、お前は何ていうんだよ」


なあ、教えてくれよ。俺はどうすればいいんだよ。誰にも言えず、何もできず、お前は俺にどうしろっていうんだよ。大きく目を見開いた彼女の顔が目に入って、一瞬怯んだ。でも止まらなかった。彼女の背中に手を回して、顔を俺の胸元に押し付けた。こっち見んな。同情も、何もいらない。ずっとずっと、ひとりで我慢するつもりだったのに。


「ごめんね」


謝んな。何なんだよ。それは何に対しての謝罪?今までのことに?それとも俺の気持ちに答えられないこと?ふざけんな。俺はただ言って、伝えて、スッキリしたかっただけなのに、答えなんて求めてないのに。勝手に拒否するんじゃねえ。もうお前の隣にはいれないのだろうか。…あゝ、言わなければよかった。苦しくても居心地のよかったここを手放したくなんてなかったのに。全部全部、お前のせい。


「何も言うな、忘れろよ」
「…うん」


もう一度小さくごめんね、と呟くのが聞こえたような気がした。知らない。そんな拒絶はいらない。俺はただ黙ってお前の隣で心地良い空間を作ってやれれば、それで。俺の心はもうそっと蓋をするから、だから。


「また何かあったら聞いてやるよ」


辛くても苦しくても、なかったことにしてくれないか。


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