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10年に1人の天才が5人同時にいた、キセキの世代。彼らと同程度の実力を持ちながらも、彼らがそう持て囃される前にバスケ部から姿を消した男が一人、いる。部長に強制退部を命じられたのだ、こんな事は前代未聞であったが彼の性格や起こした行動を考えると仕方のない事なのかもしれない、と一人息を吐いた。


「灰崎は何で暴力沙汰起こすかなあ、」
「知るかっつーの、つか俺悪くなくね?喧嘩売ってねえし?」
「喧嘩を買うのも悪いっての」


人数が人数だからかやたらと広い帝光中学内の人目のつかない場所で、背を壁に預けて地面に座り込んでいる灰色の髪をした男を見下ろしてまたひとつ、息を吐いた。口についている赤い液体を拭う手も少し赤く染まっていて実に痛々しくて、スカートのポケットに入っているハンカチを戻ってこないのを覚悟で投げ渡してやる。


「何お前、ハンカチなんかもってんのかよ」
「あんた私のこと女として見てねえだろ」
「胸もないに等しいじゃねえか」
「灰崎に対して殺意が芽生えた」


帝光の女子はキセキの世代を筆頭にサッカー部のエースや陸上部のキャプテンに夢中なのに対して私は何であの灰崎祥吾につきっきりなのかと周りの友達によく口を揃えて言われる。ごもっとも、だ。ほら、灰崎と入れ替わりで入部した黄瀬なんたらって男子なんかかっこよすぎて失神してしまう女子が後を絶たないって噂だし。…でもなんと言うか、こいつを放っておいてはいけないというか、誰かが見ててあげてないといつか本当におかしくなっちゃうんじゃないかって、いつかいなくなっちゃうんじゃないかって思う訳で。


彼には、あんな暴力野郎、灰崎祥吾はこわい、近寄ったら駄目、なんて陰口が多い。確かに灰崎は売られた喧嘩は絶対買うし、容赦なく相手を殴ったり蹴ったりする、するけど全部が全部彼が悪いわけではない。キセキの世代は誰から見ても飛び抜けてバスケがうまい、そして顔も悪くない、いや逆に顔が良い。だから妬みからのやっかみがすこぶる多いんだ、そのやっかみを彼が全て請け負っているだけで彼が悪いって決めつけられるなんて、誰もわかろうとしないなんて。


「あんたはほんっっと、不器用な男だわ」
「…っせえよ」
「皆に言えばいいのに」
「勘違いすんなよ、俺は喧嘩嫌いじゃねーし」


私から顔を背けて誰も、何もない方を向いて口を閉ざす灰崎。いつも見せないようにしてるつもりだろうけど、眉間にシワを寄せて苦しそうな顔をしていることくらい、知ってるよ。ほんと、ほんと不器用な奴だよ。


苦しくなる胸を押さえつつ彼との距離を縮めていく。それでもこちらを向こうとしない彼の前にしゃがみこんで首の後ろに腕を回してそっと抱きしめる。すると触れている部分からじんわり熱が伝わってきて安心した。この温もりが心地よい、彼は今ここにいると教えてくれるから、だろうか。


「…灰崎のバスケしてる姿、私好きだよ」
「…」
「だから、さ、バスケすること諦めないで」


まちがった温もりに溺れる
(正してあげたい、とは言わないけど、せめて消えていなくならないように抱き止めさせて)
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