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空は灰色の雲に覆われ、雨がアスファルトを叩き付ける。下駄箱から靴を取り出しながら外を見た私はうんざりとした。
今日は、何か悪い事おきるような気がする。だって、学校に着いた途端緑間に「今日のお前の運勢は最悪だ。気をつけるのだよ。」とか言われるし、朝見た天気予報は晴れだと確かに言っていたのに前述した通りザーザーと雨は降っているし。完璧に天気予報を信じきっていた私は傘なんてものは持っていない。視界に入る大粒の雨とじめじめとした特有の臭いに苛立ちを覚えながらため息をついた。しょうがない小雨になるまで待つしかないか。と諦めかけていたら「なまえ?」という声が後ろから聞こえた。振り向けば、ブンブンとこちらに手を振りながらやってくる一人の少女がいた。

「さつき!」
「どうしたの?こんなとこで……って、傘ないの?」
「あ、うん、そうなの」
「じゃあ、いっしょに帰ろうよ!私、傘持ってるから」

彼女のその一言でさっきまでの暗鬱な気分は一気に吹っ飛んだ。なんだ!今日はとてもいい日じゃないか、と心の中で喜びを噛み締める。最近はさつきは部活で忙しく、私は私で委員会の用事があったりしたので、一緒に帰るのは久しぶりだった。

「はい、どうぞ」

可愛いらしいピンク色の傘に二人で入る。小さな折りたたみの傘はさすがに少し狭くて肩が濡れてしまうけど、そんなことは気にならない。ただただこうして二人で帰れることに幸せを感じていた。
さつきと私は所謂幼なじみだ。まだ言葉も喋れないような時からずっと一緒で家族のような存在。だと思ってるのはさつきだけなんだけれどね。私が彼女に対する気持ちは、家族とか友達とかそういったものではない。恋と呼ばれるものだ。いや恋なんていう生温いものではない私は彼女を愛している。だけど、この感情がおかしいという自覚はしている。私か彼女がもし男だったら何ら問題も無いのだが。だから、私はこの気持ちを伝えられずにいる。拒否されるのも怖いし、この関係が壊れるのも怖いから。
あまり人通りの多くない住宅街に入る。下校中の生徒も今日は雨だからか近所の人達すらも見当たらない。


「そういえばね、なまえに話しがあるの。」

と、さっきまでの美味しいケーキ屋さんの話をしていた時とはまったく違った真面目な声音で彼女は言った。何故だろう。女の勘とでもいうのだろうか。その時私は無性に嫌な予感がした。辺りはシーンと静まりかえり、雨の音しか聞こえない。この胸騒ぎはきっとこの耳障りな雨音のせいだろう。そうに違いないと自分に言い聞かせる。

「なに?大事な話し?」
「うん…あのね…私、告白しようと思うの。黒子くんに。」

「…え」と情けない声が口から洩れる。さっきまでうるさかったはずの雨音もまるで聞こえなくなる。頭は真っ白で目の前は真っ黒。ようやく彼女の言った言葉を理解すると、頭痛が襲ってきた。そんな、どうして、どうしよう。困惑してる私をさつきが心配そうに見つめる。

「どうしたの?具合悪い?」

ブンブンと首を横に振り否定する。私は渇いた口を開き「そ…うなんだ」と弱々しく呟いた。その一言を言うので精一杯だった。彼女が黒子の事を好きだということは前々から知っていた。だから、こういう日もいつか来るのだろうと覚悟していたはずだった。だけど、人間というものはいざその事実を突き付けられるとうまく対処することができないらしい。だから私は今馬鹿みたいに焦り現実を受け入れないでいる。

「……あのね、なまえは一番相談にのってくれたし、すごく大事な人だから……一番に伝えようと思っていたんだ」

ほんのりと桜色に頬を染め恥ずかしそうに笑うさつき。大事なひと……。私だってさつきが大事で大好きで仕方なくて……。さつきが黒子を好きになるよりもずっと前から私はさつきの事を愛していたのに。もしさつきが告白したら二人は晴れて恋人同士になってしまうのだろう。これは予想とかじゃなく確定だ。黒子もさつきの事を好きだと言っていたから。そしたら、本当に二人が恋人になってしまったら。私の居場所は無くなってしまう。さつきの隣は私じゃなくて黒子になって。私は必要無くなって。

「さつきー…っ!」

愛というものは、こんなにも人を変えてしまうのか。愛なんてものはただ醜いだけのものなのかもしれない。はっと気付いた時にはもう遅い。彼女の柔らかい唇に自分の唇が押し当てられていた。そんなつもりは一切なかったはずなのに。さつきは目を見開いて私を見ている。その目はまるで「なんで……?友達なのに……」とでも言っているかのようだった。ごめんね、今更後悔したってもう遅いのに。さつきの手から傘が落ち、バシャンと水が跳ねた。やっぱり今日は最悪な日だ。


愛が優しいとは限らない
(後戻りはできない)
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