「高尾、あとで話があるのだよ。」


練習も自主練も終わってストレッチをしていたとき、真ちゃんが真面目くさった顔でそう言うので「告白なら人のいないところでしてー」と甘ったるい声で言ったら、結構本気めな拳を食らった。いってぇ。
















「で、どしたん?」

「水無月に何を言ったのだよ。いや、水無月と何があったのだよ。」



困った。

全員が出ていった部室で向かい合う。その距離1メートル。いくら真ちゃんとは言え、男とこういうシチュエーションになる趣味は、持ち合わせてないんだけど。


「べつ」

「別になにも、などと言ったらさっきのより重いのを食らわせてやるのだよ。」

「うわ、真ちゃんエスパー。」

「茶化すな。オレも暇ではないのだよ」


眼鏡の奥の真ちゃんの緑色の瞳が本気なことを今更ながら再確認する。なんだ、水無月ってば真ちゃんになに言ったんだ。待ってなくていいって言ったって、気にしてなかったのに。


「…いや、でもさ、正直何かした実感とか、ないんだけど。」

「…本気か?」

「本気だけど。」


オレの雰囲気がマジになったのを感じ取った真ちゃんはオレの言葉に、めんどくせぇのだよ、とかちょっと乱暴に呟くと、未だに画面防御型のケータイを取り出した。

かち、かちかちかち。しばしの沈黙。のち、何やら泣き声に似たなにか。


『みどりまぁあぁあああ…!たか、高尾が、高尾がぁああああ…!!』

『…どうしたのだよ』


いや、この録音がどうしたのだよ。

聞こえてきたのは間違いなく可愛い可愛い水無月の声で、普段の感情の起伏があまりないというか、クールめな声とはうって変わった悲鳴に近いそれに、誰か確信してはいるのに真ちゃんに聞いてしまった。


「…水無月?」

「貴様は自分の彼女の声もわからんのか馬鹿め。」

「ですよね。」





『高尾が、高尾が冷たいよぉぉぉ……。』

『冷たいのはお前だろう。付き合う前は毎日毎日、高尾君が高尾君がと煩く電話してきたくせにいざ付き合うことになればオレがいなければ話さんとはどういう』

『ほぁあああ!やめてよぉおおお!だって高尾かっこいいんだもん素敵なんだもん優しいからつい付け上がって冷たい態度とっちゃうんだもんーーー!!』

『馬鹿め。』

『うう…。そしたらさっき高尾がさぁ、苦しそうに笑って今日待ってなくていいとか言うからさぁ……。』


少なからず、驚く。水無月は気付いていたのだ。オレの完璧だと自称する作り笑顔に。


『あああやっぱりフラれんのかなぁ………そうだよね、なにせ出会いが出会いだもんね…私高尾の絵描いてた変な人だもんね……今でも描いてるけど。懲りてないけど。試合とか隠れて全部観に行って、かっこよかったところ目に焼き付けて帰っては描いてるけど、あれ、これ私なんなの、ストーカーなの。』


ぶつん。


録音はそこで終わっていた。



「…真ちゃん。」

「水無月なら校門のところでずっと待っているのだよ。ただ、先に帰ってろなどと馬鹿なことを言った輩のせいで隠れているがな。」

「明日おしるこ奢らせてください。」

「10本で手をうつのだよ。」


多いな、と心の中で文句を言って、真ちゃんにまた明日も言わずに荷物を持って部室を飛び出した。眼で盗み見た真ちゃんはため息を吐いていた。真ちゃんもどうやら手のかかる幼なじみを持って大変だったらしい。ごめんな真ちゃん。でも、今後は泣き付かれる役もオレが負うから許してな。

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