「君は妙なやつだなぁ黄瀬くん」

「なんでっスか?」

「私はなるべく、君のような目立つ人間と関わらないようにしてるんだ。そしてこないだは関わりたくないという意思表示までしたんだ。なのに、だ」

「はいっス」

「君は何ゆえにここにいる?」



今は昼休み。カンナと黄瀬は横に並んで、仲良く昼食を…というわけではなく。カンナは既に昼食を食べ終わり読書に耽り、黄瀬だけが昼食の入った袋を前にして座っていた。あのケータイの件のあと、黄瀬はカンナのもとに通い詰めていた。

おかげで教室で昼食が摂れなくなり、カンナはわざわざ屋上で昼食を食べるはめになってしまった。



「カンナっちと一緒にいたいんスよ!」



面倒な大型犬になつかれてしまったものだ、と溜め息を吐いて、カンナは目の前の文庫本に視線を戻した。



「……カンナっち」

「なんだ?静かに読書させてくれ。というかこの間から、なんなんだその呼び方は。」

「オレ尊敬する人とかには"っち"ってつけるんスよ」

「そうか。やめてくれ。そして私を呼んだ理由はなんだ?」

「カンナっちっていつ飯食べてるんスか?オレ見たことないんスけど」

「私か?食べている。君が来る前にな。」

「え?何をっスか?」

「これだ。」

「バランス栄養食と水?!」

「私は君と違って運動部ではないからな。これでこと足りる。」

「だ、だめっスよそんなの!」

「何故だ?時間の短縮になっていいぞ?」

「そんなん身体壊しちゃうっスよ!誰か友達とかに言われなかったんスかいままで!」

「あいにく、あまり友人というものを必要としないタチでな。慣れると楽だぞ?」

「…カンナっちって、ほんと変わってるっスね。」

「その呼び方をやめてくれ。そして君ほど変わってはいない」



いつの間にか文庫本を閉じ、黄瀬との会話に夢中になっていて、表情も豊かになっている。他人に干渉されるのも、干渉するのも嫌いなカンナが、黄瀬に恋をしたことを自覚するのは、まだ先の話で。



「ゴールデンレトリバーか君は」

「そういうカンナっちはロシアンブルーみたいっスね」

「私は黄色人種だから瞳の色はブルーじゃないぞ?」

「あははっ。ウケるっスカンナっち」

「よくわからないな君は」





…いや。くすりと笑いをこぼした自分にカンナがハッとした今、そう遠くはない話かも知れない。











二枚貝の恋

(…動悸、緊張、胸が苦しくなる、と…これはまさか…)
(どうしたんスかカンナっち?)
(黄瀬くん大変だ。私には不整脈があるかもしれん。…いや、もしくは更年期障害か…?)
(…は?)



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